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恋火6
むうっとしたソルは、屋敷の中へ駆け込んだとたん、
大声で喚き散らした。
「皆黒 !なんであんな言い方するんだ!マールが怖がって帰っちまったじゃないか!」
「そんなの、オレには関係ない」
けんもほろろに突き放され、ソルは眉をひそめて彼を睨みつけた。
「…――なんで、…そんなにマールを嫌うんだ? …恨みでもあるのか」
「そっちこそ、なんであんな水精霊ごときに執着する」
「…執着?」
その意味が分からなくて、ソルはぱちくりと目を開いた。
「まさか恋でもしたとか言うんじゃないだろな」
吐き捨てるような皆黒の言葉に、さらに声を失った。
「…何、だって…」
「恋だよ。知らないのか。――誰かを大切に思う気持ちだ。時に愛しすぎて胸が苦しくなる」
「…っ」
ソルは反射的に拳をぎゅっと心臓に押し当てた。
さっきと同じように、
マールを想っただけで、心臓が焼け付くように痛む。
「と言ってもまぁ、お前には縁のない話だろうが」
「…、」
「いいか、ソル」
皆黒は、厳しい目つきで人差し指をソルに向かって差し出した。
「お前は自分を知らなさすぎる。《人》以外のモノに遭遇して浮かれてるのは分かるが、あのマールはお前の天敵だ! うっかり近づこうものなら一瞬でまるごと食われちまうぞ!」
「…それは、…オレが、気をつければいい話で、」
「じゃあ、気をつけろ! オレをイラつかせるな!」
「…、っ」
唇を引き結んだ皆黒が、人差し指で暖炉を指さす。
戻れ、という意味だ。
ソルは仕方なくすごすごと暖炉の中へ潜り込んだ――。
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