24 / 57
くちづけ1
ある朝。
キッチンから甘い匂いが漂ってきて、
目を覚ましたソルは、ふわりと暖炉から飛び出して、皆黒の元へと向かった。
テーブルの上には、見慣れない豪華な料理が乗っている。
ソルは目を見張った。
「…これはなんだ?!」
「ケーキだよ」
テーブルに身を乗り出したソルに苦笑し、皆黒が即答した。
「つかおい、テーブルに近づきすぎるな。クロスが燃える!」
「…、ケーキ、…」
色とりどりのカラフルなケーキを前にして、
ソルは、すっかり見入ってしまった。
皆黒は、いつもは庭の畑で作った粗末な野菜しか食べないのに。
しかもその畑ですら、魔法で作った代物で。
冬でも雨期でも、関係なく実る野菜を食べるのが、毎日の習慣だというのに。
(――珍しいこともあるものだな)
と思っていると、皆黒が珍しく幸せそうな笑みをこぼした。
「実は今日、恋人の誕生日なんだ。特別な日だ」
「…アンタにもそんな相手がいたのか」
「もういないけど」
「へ?」
ソルは首を傾げた。
ともだちにシェアしよう!