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くちづけ2

「水害で死んだんだ。もう何年も前に、洪水で流された。助ける間もなかった」 「…あぁ、だからアンタは水がキライなんだな」 「オレも同じように死にたかったれど。残念なことに、死に損ねた」 まるで笑い話みたいに、皆黒は言った。 「死に場所を求めてこんなとこまで来たけど、もうここに住む意味もなくなったなぁ」 「…出て行くのか、この森を」 ソルの瞳が不安そうに揺らぐ。 その意味を察して、皆黒がくくっと笑った。 「そしたら、お前は困るだろうな。大好きなマールと離れるのはつらいだろう?」 「…っ、別に、」 「そうかぁ? お前はあの水精霊が大好きだろう?」 皆黒が、からかうように笑う。 その面持ちがふと神妙になったかと思うと、 皆黒はきゅっと唇を引き結んで、出来上がったばかりのケーキを見つめた。 「――水は脅威だな、ソル」 「…」 「だが、すべてがそうだ。もちろんお前も例外じゃない。限度が過ぎれば命をも脅かす、世の習わしだ。…だから望みすぎてはいけない。求めすぎてはいけない。人はささやかに生きていくのだ」 皆黒に促されて、ソルはケーキのロウソクに火を灯した。 小さな光が3つ、緩やかなともしびとなって視界を美しく照らしている。 「…なぁ、これ少しもらっていいか?」 ソルが遠慮がちに尋ねると、 彼は、ふふっ、とやはりからかうように口の端を曲げた。

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