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とある夏の日2
早く早く、とソルに促されて河辺に向かうと、
なるほど確かに、河が無くなっていた。
「ほら、な? 本当だろう?!」
「うーん」
岸のほとりに立ち、皆黒は胸の前で腕を組んで考え込んだ。
目の前の河は、すべての水がなくなり、完全に渇水している。
水底はところどころヒビが入っていて、あんなに溢れていた河の水はほとんどゼロに近い。
「いくら雨期が終わったとはいえ、日照りというわけでもなさそうだな。…昨夜の地鳴りのせいか」
「…地鳴り?」
ソルは、皆黒の顔を覗き込んだ。
「昨日の深夜、ドーン!と大きな音が響いたのに気づかなかったか?」
「…し、知らない」
ソルが蒼白して首を振ると、
「お前、昨夜は熟睡してたものなぁ」
皆黒は呆れるようにくすりと笑った。
「なんだよ、それがどうした。何が起こったのか知っているなら説明しろ!」
「おおかた山の上で岩崩れでもあったんじゃないか。そのせいで水脈が変わり、干からびてしまったんじゃないのか?」
「…そんなっ、…それじゃあ、マールは…?!」
「さぁね」
皆黒は、細い息をついて、昨日まで河だった場所を見つめた。
「精霊は死ぬことはないから、多分どこかに場所を移しているだろうな」
「…どこか、って?」
「水がたくさんある場所だよ。当たり前だろ」
その言葉に、ソルが息を飲んだ。
「…じゃあ、もう、…マールは、…戻ってこない…?」
「オレとしては助かるけどな。これで橋を作らずに河の向こう側に行ける!」
「…ヒドイ、」
「知ったことか」
ふいと顔を背け、皆黒は心底どうでもいい、というように屋敷へと戻って行った。
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