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とある夏の日6
いつまで経っても帰ってこないソルを心配した皆黒が、山際の中腹にたどり着いたのは、
すでに日が沈みかける頃だった。
愛馬・陽王 を連れて枯れた河を上がっていた時、
広い水たまりの中で動けなくなっているマールを発見した。
「うぉ、っと…」
バチッと視線が合ったとたん、お互いに表情を引きつらせて無言になった。
瞳を潤ませたマールが、すがるようにこちらを見上げてくる。
まるで、助けを求めているかのように…
皆黒はすぐさま事態を察して、ため息をついた。
「まったく、お前はホントに迷惑なことばかりしてくれるな。疫病神か」
「ご、ごめ…ごめんな、さ…っ、――うわあああああんっ!」
「分かった分かった。今、助けてやるから」
ソルと同じようなセリフを吐いて、陽王を近くの木に繋いだ皆黒は、
足元に転がっていたバケツでマールを救い出した。
ようやくホッとしたらしい水精霊が、
バケツの中でひくひくとしゃくりあげて泣き続けている。
「…ソルが迎えに来ただろう?」
「き、消え、た…! 僕を助けようとして、風にあおられて、それで、」
「あらま」
「ソル、は…? 死んでしまった?!」
「んなわけあるか」
肩をすくめた皆黒は、バケツを陽王の背中にぶら下げると、ゆっくりとした足取りで河を下り始めた。
歩くたびにポチャポチャと水音がするものだから、
うっかり陽王がつまづいてバケツがひっくり返らないよう、細心の注意を払わなければならなかった。
それが思った以上にストレスで、彼はひたすらむっと顔をしかめて歩き続けた。
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