40 / 57

ソルの言い訳2

河から上がったマールが、真剣な面持ちでこの屋敷に向かってくる。 全身ビシャビシャのまま、それでも構わず坂を登ってくるのを見て苦笑した。 「おやおや。彼はよほどご立腹らしい。…まぁ少しぐらい水がなくても平気だろうけど、勇気があるなぁ」 「…? なんの話だ」 「お前の大切な人が、あと数分でこちらにやって来るよ」 「えっ?!」 ソルは慌ててさっと暖炉の隅に身を隠した。 精一杯に体を小さくして、炭の燃えカスに紛れるように息をひそめる。 「なにやってんだ、お前は」 「黙れ。オレのことはマールには言うな」 「バカだなぁ」 と呆れ果て、やれやれと肩をすくめた直後。 水精霊・マールが、ノックもなしに屋敷の中に入ってきた。 キレイな顔が台無しになるほど眉毛を吊り上げ、今にも泣きそうになっている。 皆黒は、小さく息をついた。 「ようこそ、と言いたいところだけど。泥水に変えられても文句が言えない無礼さだな」 「ソルはどこ?! もう帰ってるんでしょう? なぜ僕に会いにこないの?!」 「――あいつは、いない。呼び戻そうとしたけど、全力で拒否られた」 「!」 とたんにマールが蒼白した。 打ちひしがれた顔をして、美しい空色の瞳がぐらりと揺れた。 …暖炉に、火の気がない。 細く白い煙が漂っているものの、その小さな火種からはソルの気配を感じ取ることができない。 マールは愕然とした。

ともだちにシェアしよう!