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ソルの言い訳7
「…僕のこと、キライになったんじゃないの…?」
「ん?」
「僕が迷惑をかけたから、怒ったんでしょう?」
「や、…いや、…――うーん、」
マールに問われて、彼は困ったように視線を泳がせた。
「…なんか、恥ずかしくて。カッコつけて探しに行ったくせに、結局助けてやれなくて。ちょっと顔が見せられなかった、というか…」
「怒ってない?」
「もともと怒ってない」
「本当に?」
「――もっと近くに来て」
不安そうなマールに目を細め、ソルは彼を手招いた。
「オレは、これ以上水に近づけないから。もっと近くでよく顔を見たい」
そう言われて、マールはぎこちなく水面に身を乗り出した。
前のめりになったソルが、ギリギリのところまで顔を近づけてくる。
そっと、お互いの唇が触れ合った瞬間、
凍てつくような痛みが走った。
それでも心の中はほわりと温かくて、
「まぁとにかく無事で良かった」
ソルが呟くと、
顔を見合わせて、照れくさそうに笑ってしまった。
「…ソルは、いつまでここにいる?」
「え?」
「君は、人間の《所有物》だから、いつか皆黒と一緒にここからいなくなる、ってルイードが」
「――」
「森に火は必要ない…危険すぎるって、…ルイードが…」
その言葉は、ソルにはかなりの衝撃だった。
――だって、
いつかいなくなるのは、マールの方だと思っていたから。
彼は水のある場所ならどこにでも行き来できる自由人だから…
できれば長くこの森に留まってくれればいいと、ひそかに願っていたのに――
…自分自身が、いつか、この森を去る日がくるなんて、想像もしていなかった。
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