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信頼してる理由

言われた場所に着くと中はシーンとしていて本当にここに若がいるのかと疑うほど。 「中の様子見てくる」 「俺がいこうか?」 「いい、そこで待ってろ。」 早河が廃工場の扉を少しだけ開けて中の様子を確認した。そこに人はいないらしくこっちに来いと手招きされて、早河のところに静かに走っていく。 「若は?」 「見えてる範囲にはいねえよ、探さないと…」 「中入って見てくるから、若がいてここに連れてくるまでに、もし敵がいて見つかったら、お前は若を連れて逃げろ」 「…わかった」 こっそりと工場内に入って若を探す。「んー!んー!」と唸ってるような声が聞こえてそちらを見てみると、若がガムテープで口を塞がれ手足を縛られてる姿があって、慌ててそれを外し若を抱きしめた。 「お怪我は!?」 「うーんとな、殴られたり蹴られたりしたけど大丈夫だ」 「…もっと早く見つけられなくてすみません」 「いいって。なあ悪い、疲れたし蹴られて腹痛いから負ぶって。」 「はい」 まだ小さい若を負ぶってここを抜けるのは危ない気がしたので、抱き上げて周りを見ながら工場を出ようとした。 「そういえば、あいつら倒したのか?」 「え?」 「ここにまだいるだろ?」 若にそう言われたのは工場内の半分しか来てないところ。 「やっと来たな、浅羽の犬が。」 そう聞こえた時にはすぐそこにナイフを持った男たちが迫ってきていた。 若だけでも守らないと。とそっと若を下ろす。 「ここから出てください。扉のところには早河がいます。」 「お前は!」 「すぐに追いかけます。大丈夫です。」 「…早く来いよ」 そうして走っていった若を見てから目の前にいるそいつらと対峙する。 「いやぁ、もっと上の奴らが来ると思ってたんだけどなぁ。お前浅羽の下っ端だろ?お前殺ってもあんまり変わんねえけど、まあいいか。」 「…お前らはどこの誰だよ。」 「それはお前が俺達に勝てたら教えてやるよ」 すばやくチャカを手に持って、それを男たちに向けた。向こうはナイフ、こっちは拳銃、接近戦でしか使えない武器を持ってる奴らよりは幾分か有利だ。 「撃てんのか?下っ端くん。それで人を撃ったことがあるか?」 「…………」 「使い慣れてねえそれを使うのは危ないぞ」 そうして一人の男が俺に突っ込んできた。小刻みに震える手、チャカを構えるけど撃てない、人を撃つことに恐怖してる。 ナイフを持った男が目の前に迫った時だった、大きな音が工場内に響き渡る。そして目の前の男は悲鳴をあげて倒れた。 「使い慣れてねえわけねえだろが。」 そこにはチャカを構えてる早河。銃口からは煙があがってる。 「早河…?若は!?」 「隠れてもらってる、心配するな」 「そう、か」 「たかが5人じゃねえか。手間取ってんじゃねえよ」 「…ああ。」 手に力を入れて相手の足や肩に向かって発砲する。 倒れて血を流すそいつらをさっさと捕まえて上司の前に連れていかなければならない。 全員が膝を地面につけて終わった……と気を抜いた時だった。 肩に弾を受けたそいつは立ち上がり、俺に刃を向ける。でも気づいた時には遅くてこれからくる痛みに覚悟して目を強く瞑った。───なのに、一向に痛みはやってこない。 ゆっくりと目を開けると俺の目には早河の後ろ姿が映る。 それから早河はナイフを向けてきていたそいつを蹴り飛ばし、地面に膝をついた。 「え、早河…?」 「痛い。」 前から早河をみると服が赤く染まってきている。腹を刺されたらしくて顔も痛みで歪んできて、その体勢を保てなくなったようで俺にもたれ掛かった。 「痛え…」 「ちょ、ちょっと待ってろすぐにトラの所に連れてってやるからっ!死ぬなよ!?」 「誰がこんなので死ぬかよ」 とか言う割に顔色が悪くなっていく。止血しねえと、と工場内にあった、きっと若を縛っていたガムテープを早河の服の上から巻きつけていく。 「いっ、」 小さく呻く早河、俺を庇って間に入ってくれたんだと思うと泣けてきた。 「は、お前何泣いてんの」 「泣いてねえわ」 「泣きそうに、なってんだろ」 「うるせえよ…」 そう言うと早河は薄く笑って目を閉じた。

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