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世那の居場所 『少年くん』
「なあ、世那って結局どうなったんだ?」
「ああ?世那?あいつは───」
***
抗争が終わってから一ヶ月くらいが過ぎたある日。
八田さんの後ろをついて繁華街を歩く。ついて来いって言われただけだからどこに行くのかわからないや。
「どこに行くんですか?」
「さあな」
さあなって…、ちょっと不安な気持ちのまま歩いてると八田さんは突然立ち止まり俺の背中をポンと押した。
「わっ、何ですか!」
「ほら、あそこ見ろ」
「え?……っ!」
そこには母さんと妹の咲希 がいて俺は言葉も出なくなった。向こうも俺を見て固まっている。どうしたらいいのかわからなくなって、とりあえず手を振ってみた。けれど、向こうは振り返してくれなくて、そりゃ死んだって聞いてたんじゃそうだよな、信じてもくれないよ。
八田さんに向き直ってさっさとどこかに行きましょう、と言おうとした時だった。
「光輝 …!!」
懐かしい名前を呼ばれて胸がいっぱいになって泣きそうになる。泣いてたまるかと唇を噛むと八田さんに頭を撫でられた。
「行って来い。心配かけたんだから。」
「で、もっ」
「今は世那じゃなくて、光輝としてお前の母さんと妹さんに会いに行け。」
「俺、浅羽には帰れないん、ですか…?」
「いいから、早く行け」
それだけ言うと八田さんは来た道を帰って行く。何だかもう浅羽には俺の居場所はないと言われているような気がした。
「光輝…!光輝っ」
「お兄ちゃんっ!」
母さんと咲希が俺に抱きついてくる。繁華街のど真ん中、恥ずかしいけれど二人を離そうなんて思わなかった。
二人が落ち着いた頃に、繁華街から久しぶりの我が家に帰ってきた。
「死んだ、って、聞いてっ」
「よかったっ」
ずっと泣いている二人は目元を擦って俺を見る。
「何が、どうなってるのかわからないの…説明してちょうだい。」
「えっと…」
それから全てを打ち明けた。金をなんとか稼ごうって危ない事して、それを助けてくれたのが八田さん達だと言うこと。
その人達からの提案で、俺は死んだということにして、守ってもらっていたこと。
「さっき見ただろ?俺の隣にいた人、その人が八田さん。」
「…その方は何をしてる方なの?」
「それは…」
言わないといけないんだろうけど言いにくい。ヤクザだと言ったら母さんに八田さん達とはもう関わらないでくれと言われるんじゃないかって思って。
「光輝…?」
「あの、人たちは…」
「言えないような、職業の人?」
「…あの人たちは浅羽組っていうヤクザの人達。」
「ヤ、クザ…?」
母さんの顔が歪む、それでも笑顔は無くなることはなかった。
「ヤクザって言ったら…悪い人達なのかも知れないけれど、光輝を助けてくれたのよね…。大切な私の息子を守ってくれたんだからきっと、悪い人じゃないわ。」
「…そ、そうなんだ、本当にいい人達で」
「お礼を、しなくちゃね。」
柔らかく笑う母さん、前より少し窶れた気がする。
「その、八田さんに会えないかしら」
「でも…俺、もう八田さんに会えないかもしれない」
「どうして…?」
「だって、母さんと咲希のところに行けって言われて…」
家族のもとに帰って来たくないわけじゃない、けれどやっぱり寂しくて。
そう言うと途端に、母さんは怒った表情になった。
「そんな勝手は許さないわよお母さん!助けるだけ助けてお礼を言わせないなんて!八田さんに説教してやる!電話貸して!」
「はぁ!?母さん!?え、ちょっ!母さんやめて!?」
母さんは俺の携帯を引ったくり連絡帳から八田さんを見つけてそこに電話を入れていた。向こうで何かを話してる、俺は呆然とそれを見てる事しかできなくて。
「お兄ちゃん、大丈夫?」
「あ、ああ、大丈夫…」
って、そんなわけはない。
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