目を覚ましたのが夕方くらいで、よく寝たな…と伸びをする。起き上がって、リビングに出て不意にテーブルの上に置いてある抑制剤が目に映った。 「…夢なら良かったのに」 ズン、と自分の心が沈んでいくのがわかる。 腹が減ってきて何か作ろうと思ったけど、それももう億劫でソファーに寝転ぶ。 明日は行きたくないけど、早いこと親父に今回の結果についてを伝えに行かないといけない。 親父は有り得ないと思いたいけど、オメガだからクビになった、なんていう人もこの世の中にはいるようで、もし仮にもあの場所から捨てられたら、どうしようと不安が襲ってくる。 「…ど、うしよ…」 そういえば定期的に起こる発情期で、番がいるオメガは誰彼構わずフェロモンを発することはないという。それこそその番相手にだけ。 つまりは、その状況を作っておかないとまずいんじゃないか？下手をしたら発情期に溢れ出るフェロモンのせいで理性を失くしたアルファやベータに襲われる可能性すらあるわけだ。 そうしてもちろんその時俺は発情しているせいで力が出ないはず。抵抗することはきっと不可能に近い。 いや、そもそも抑制剤を飲んでおけばいいんだろうけど、いつか薬を飲み続けることで体に耐性がついて効かなくなってしまったら？ 頭の中でぐるぐると嫌な事を考えてしまって気分が悪い。 そうしてソファーでゴロゴロとしていると玄関の扉が開く音が聞こえて、この家の合鍵を持ってるのは早河しかいないから、どうやら仕事を終えた早河が来たらしく、けれど俺はそのまま体勢を変えることもせずにそこにいた。 「命」 「ん」 すぐに俺がソファーにいると気づいて側に来た早河が「少しは落ち着いたか？」と声を掛けてくる。 「…落ち着きはした、けど…」 「納得はいってねえってか」 「うん」 起き上がってじーっと早河を見る。 もし早河が番なら、嫌なことはしないと思うし…。 「なあ、お前は俺を抱くこと、想像できる？」 「…何だ急に」 「だってお前はアルファだろ、アルファはオメガより希少だ。これから先アルファに会える確率なんてきっと無いに等しいし、会えたとしてもそいつにはもう番がいるかもしんねえし…。」 「おい命」 「そうなったら、俺は発情期が来るたびに知らない奴ら相手に怯えなきゃいけねえってことだろ。そんなの嫌だ」 「命」 「だから、頼むから、俺の番に、なって。」 「……後悔しねえんだな」 怒っているようにも見えるくらい真剣な目が俺を射抜く。 何故か自然とジワジワ溢れてくる涙が瞬きをする度に散った。 「…俺のこと、捨てないって約束してくれるなら。」 「当たり前だろ」 そう言って早河はそっと俺を抱きしめた。