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オメガバース
次の日、辛いはずなのに薬を飲まないユキがベッドの上で体を小さくして息を荒くしていた。
「薬は飲まないのか…?」
「う、っ…」
「ユキ…?」
「み、命、あのね…っ」
そっと顔を上げたユキは、今にも襲いかかりたくなるくらい赤い顔でとろんとした目を俺に向けてふんわりと笑った。
「僕、ね、あのね」
「何だ」
「実は…」
ユキが話をしだした時、ピンポーンと軽快な音がなって「悪い」と謝りながら玄関に行くと早河と、眉間に皺を寄せて唇を噛んでる八神がいた。
「命さん、ごめんやけど、上がらせてな。」
「は?おい、八神!?」
靴を脱ぎ捨ててリビングの方に行った八神を追いかけようとすると早河に腕を掴まれて「話がある」と言われる。
「ちょ、待て!今はユキが…!」
「ユキくんなら大丈夫だ」
「はあ?」
「昨日ユキくんには伝えたが、実は八神はアルファだ。」
それを聞いて嫌な予感がした。
まさか、八神とユキが番になったりしねえよな?と。
「ユキくんがオメガなのは知ってるし、だからお前がいつも発情期の度に我慢してることも知ってる。」
「…そんな話、した事ねえだろ。なんで知ってるんだよ」
「ユキくんが俺にこっそり話してきた事があったからだ」
ユキが?俺の知らない間に早河にそんな話をしていたなんて。
「だからユキくんは、どうしたらお前が我慢しなくていいのかっていつも考えてたんだよ。お前が我慢してる姿を見るたびに、あの子は罪悪感でいっぱいになってたんだ。」
「そ、んなの…ユキが俺に話してくれたら俺だってなんとかして…。」
「何とかして、って、どうするつもりだった?オメガのフェロモンにあてられるのは仕方のない事だ。それをどうにかするにはアルファを見つけ出して番になってもらうしかねえ」
「…おい、それなら、ユキは…」
「ユキくんは八神と番になる事に納得してる。それがこれから先一生解けない事も理解してる。」
フッと体から力が抜ける。
俺の知らない間にこんな事になっていたなんて、悔しさで今にも目の前のこの無表情野郎を殴り殺したくなる。
「ユキくんはもう八神の物になるんだ」
「待てよ…そんなの…」
「ユキくんの人生はユキくんが決める。お前がどうこう決める権利はねえ。」
寝室の方からユキの声が聞こえる。
その声は酷く甘くて、それこそ噎せ返るようなものだ。
「ユキくんが決めたんだ」
いつの間にか目からたくさんの涙が溢れて頰を伝っていた。
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