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オメガバース

突然、甘い匂いが無くなった。 八神がついにユキの番になったんだと知る。 「…殺す」 「ふざけた事抜かすな」 ユラリと立ち上がった俺の頭を叩く早河にさえ殺意が芽生えて拳を振り上げたけれど、その前に頰を殴られ廊下に倒れこんだ。すぐに立ち上がって早河の存在を無視し寝室に行こうとすると「今行けばお前が後悔するぞ」と言葉を掛けられて止められる。 「番になるってのは、性行為中に項を噛まなきゃいけないらしいからな。」 「…お前、喧嘩売ってんのか?」 「そうかもな。」 チッと短く舌打ちをした俺に早河は「座れ」と言ってくるけど、誰がお前の指示なんて聞くか。とリビングの方に行きソファーに座る。 ああまた、ユキの甘い声が聞こえる。 俺じゃない奴に抱かれてるユキの声。 ────もうここにはいたくない。 携帯と財布だけ引っつかんで、さっさと玄関に行けば早河がいて、俺の様子を見て眉を寄せる。 「どこに行く」 「ここじゃない場所だよ」 家を出てエレベーターに乗り込み車で組に向かう。 こんな裏切りはあるのか、と悲しい気持ちで。 挨拶をしてくる組員達に適当に返事をして幹部室に入り、誰もいないことを確認してから隠し持っていた銃を手に取り隠す。 俺が拾って、今までずっと育ててきて、晴れて恋人になってこれから二人で幸せになれる道を探そうとしたら、これだ。 そっと幹部室を出てここまで来た車に乗り込み今度は海に向かう。焦るような、その癖に此処に留まりたいと思う、全く反対の矛盾し合った気持ちを心に持ちながら。

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