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オメガバース
長い時間が経った。
「これ欲しい」
俺は社会人になって、オメガの太陽は就職もできずに俺に養われてる。だるっとした服を着て雑誌を広げこれと指をさした太陽の指は細っこい。
「うん、じゃあ買いに行こうか」
「…なあ、架月」
「何?」
「お前、今の暮らし楽しい…?」
「俺は楽しいよ、だって太陽がいるもん」
太陽を抱き寄せて首に何度とキスを落とす。擽ったいと身を捩って笑った太陽は「ならよかった」と俺の頰を両手で挟んでキスをしてくる。
「あ、でももう一つ、お前は今の暮らしに不満はないか?」
「ないよ。ねえ何でそんなこと聞くの?」
もしかして太陽の方が不満を持っていて、だからそんなことを聞いてくるの?
「…俺はお前に働かせて、養われて、そのくせに家でゴロゴロしてるだけだし…、だから、お前に負担がかかりすぎてるから…」
「そんなこと気にしてるの?何で今更?仕方ないじゃん、だって太陽はオメガなんだもん。」
「……そう、だけど…」
「オメガの社会的地位が低いのは遠の昔に知ってるし、そのせいでベータやアルファみたいに将来働くこともできないかもしれないってこともわかってた。その上で俺は太陽の番になったんだよ。」
「…な、なあ、その、オメガだからって、言い方やめてくれ」
泣きそうになっている太陽に、ああまたやってしまった。と思い「ごめん」と謝る。
前にもオメガだから仕方がない、と太陽が嫌がる言葉を言って傷つけたことがあった。
「ごめんね」
「俺、オメガだけど、ちゃんと…働きたいとは、思ってるんだよっ」
「うん」
オメガだからという理由で採用してくれない会社も多い。受けた会社を悉く落とされて、人間不信にすらなり始めてる太陽が頼れるのはもう、俺と、両親だけ。
「ごめんね、もう言わないから」
「ん…」
なのに俺に「オメガだから」って言われて、太陽が苦しくならないはずがないのに。
もう、今日は散々に甘やかせてあげよう、俺の腕の中で静かに涙を零す太陽にそっとキスをした。
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