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チクッとだけ
ユキが眠って、しばらくなんの副作用もないか確認をしてから、車に乗って家に帰った。
ユキの頬に泣いたあとができている。そこを撫でると薄く目を開けたユキが、俺の手をきゅっと掴んだ。
「命、嘘、吐いた」
「嘘?何の嘘?」
「僕、痛かったもん」
「ごめんな。でもユキが辛くないようにしたかったんだよ。」
「でも、もう僕辛い思いしたもん」
起き上がって俺の手を掴んだまま、また目に涙を溜める。
「悪かったよ」
「······ううん、もういい」
「ユキ、怒らないで」
ユキを抱きしめると俺の肩に頬をつけて「いいよ」と優しく返事をする。
「命のこと、好きだからいいよってするの」
「ああ、ありがとう。」
ユキをおろして、暇だろうと思いテレビをつけてやる。
「あの猫さんも注射したぁ?」
「してるかもな」
「ネズミさんは?」
「さあなぁ」
いつものDVDをみながら気になることを聞いてくる。それは全部注射に関係すること。
「もう注射しない?」
「ああ。もうしない。次は来年かな」
「ら、来年もするのっ?やだぁぁ!」
そうしてまたわんわんと泣き出したユキを宥めるのに、しばらく時間がかかったのだった。
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