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八田と蓮
「それにしても命はショック受けてたんじゃないの?自分が出て行った後にできた弟が同じ目に遭っていたってなると…」
「俺にはそういうところ、見せなかったけど…多分そうだろうな」
「あの子、思いつめてなかったらいいけど…」
多分あいつは自分のせいだと思っている。俺に預けるときもひどく泣きそうな顔をしていたし、兄としての役目を果たせてやれてないことも1つの重荷になっているのかもしれない。
「今度命とゆっくり話してやってくれ。俺はあんまりあいつのことをわかってやれねえから」
「ええ。でもあの子が自分のことを話すかって聞かれるとまずないわよね。嫌な記憶は頭の奥底に沈めてるんだから。」
「…あいつも難しいな」
「そうよ、言っておくけどあんた達の中で一番難しいのは早河じゃなくて命なんだからね!?」
いつも素に見えるけれど、本当はそうでないのかもしれない。いや、俺たちだけじゃなくて命自身もわかってないのかも。
「命は早く何とかしてあげないと近いうちに辛くなっていくと思うけど、蓮くんは多分まだ大丈夫よ、そのレベルにまでは行ってないと思うから」
「ああ」
そうして話していると蓮が唸りだして近くに行きトントンとお腹を撫でる。
「っ、う…」
「蓮」
「……あ、ひ、かる兄ちゃん…」
目を覚ました蓮が俺に手を伸ばす。その手を掴んで「大丈夫か?」と聞けば座薬で少し体が楽になったのかコクリと頷く。確かにさっきよりは熱くなくなっているを
「じゃあ家に帰ってゆっくり寝かせてあげて」
「ああ」
「蓮くん、お大事にね」
トラの言葉にコクリと頷いた蓮を抱き上げて、家に帰ろうと建物を出た。
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