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命の本当
「命に何言ったんだ」
3日くらい経った日の朝、早河から電話が来てそう聞かれた。命とあたしの秘密だと約束したから簡単に内容を言えなくて、「どうして?」と聞いてみる。
「お前が連絡してきた日から命の様子が変だ。何かに怯えてるような…怒ってるような…でもそれを必死に隠そうとしてる。兎に角いつものあいつじゃない」
「隠そうとしているなら、それを指摘しないで。」
「…何でだ」
「言えないわ。命と約束をしてるから。それと近いうちにあたしのところに来るように伝えておいて」
早々に電話を切ってはぁ、と息を吐く。
必死で隠してるのに、「どうした?」なんて言われたらもっと分厚い仮面をつけてしまう気がする。そうなったら命の中と外のギャップに命自身が苦しんで行くことになってしまう。
難しい…と思って机に顔を伏せる。
早く早くとなぜかすごく焦ってる自分の心を静めないと。あたしが焦ってもダメだ、そう思いながら、命がここに来るのをジッと待った。
***
「トラ」
力無く私の名前を呼んだ命。
微笑みかけると命もまた同じような笑顔を見せてきた。
けれどすぐにそれは剥がれ落ちる。
「あの日から、チラチラと思い出すんだ、今の俺は、あの日の何も出来なかった子供じゃないって、わかってるのに、怖くて…」
「命、こっちにおいで」
入り口のところに立ってポツポツと話す命にとりあえず座りなさいと言ってコーヒーを出す。
「そうよね、あんたはもう1人の立派な大人なんだもの。だから、苦しんでたユキくんを助けることができたの」
「…………………」
「自分と同じ事をされていた子供を、助けることができたのよ。それはとてもすごいことだと思うわ」
「俺は…誰にだってできることだと思う」
「でもね、そんな状況にいた子が人を信頼するのは難しいことなの。それでもユキくんは命のことをすごく信頼してる。それはあんた自身がユキくんのためだけに頑張ったから」
命の目からポロっと小さな涙の雫が落ちる。
「あんたは大分成長してるの。人を助けてあげれるんだから、あの時の何も出来なかった子供じゃ、ないでしょ?」
「…ああ」
「だから、もう過去のことは全部受け入れて、それからまたもう一歩進むの。そうしたらきっと…もっと、世界が明るく見えると思うわ」
次第に命の涙は止まらなくなって、頭を撫でると安心したように体の力を抜いた。
「…ちゃんと、成長できてたんだな」
「ユキくんを拾ったときから、あんたは大分変わったからね」
ティッシュを渡して涙を拭かせ、命の隣に座ってきつく抱きしめると「痛い」と言いながらもあたしを引き離そうとはしない。
「あんたはもっともっと、もっと、強くなるわ」
「うん」
仮面を貼る癖は治ってなくても、きっともう今のように無理することはなくなるだろう。
命の大きな手をとってキュッと握る。
目を合わせて、ふっと笑うと、さっきまでとは違う、余裕のある優しい笑顔が見えた。
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