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命が怒った

俺はその後こっそりとトラに連絡を入れた。 トラは命が落ち着くまでユキくんには会わせないと言っていたけれど、むしろユキくんに会わせた方が命は落ち着くんじゃないかと思う。 「大和!」 「何だ」 琴音が焦ったように俺を呼んで、眠っている命を指さした。 様子を見れば魘されていて、その目からは涙が流れている。 多分このままじゃ、命がダメになってしまう。 「琴音、トラを呼んでくれ」 「わかった」 命に近付いて、肩に触れ軽く体を揺らす。 名前を呼んでやると勢いよく目を覚まして俺の手を掴み怯えたように俺を見た。 「落ち着け」 「っ、はぁ…」 「おい、どうした」 「触るなっ」 気持ち悪いのか口を抑え、反対側の手で俺に向かい拳を突き出してくる。その手を掴み背中を撫でると嫌そうに振り払われた。 「はぁ、っ、ぅ…」 「気持ち悪いなら横になれ」 「う、ぅ…しね…」 「命、大丈夫だ。ここにお前のことを傷つける奴はいない」 「うるせえっ!!てめぇも殺してやる…!」 琴音が「すぐに来るって」と言いに来たけれど、命の様子を見て怯えている。床に寝かせて荒い呼吸を繰り返して服の胸元を手繰り寄せ小さく丸まった命に、そういえば昔も一度だけ、全く同じ状況にあった事があるな、と呑気に思い出す。 「大和、どうしたらええの…?」 「お前は離れてろ。急に殴ってくるかもしんねえから」 「そ、そうなんや、わかった」 ちょっと離れた場所で大人しくしてる琴音に申し訳なさを感じながら、暫く待っているとインターホンが鳴る。その音でビクッと体を震わせた命。 どうやらトラが来てくれたようで琴音が玄関まで迎えに行った。 「だ、れ」 「トラだ」 「…なんで、トラ…嫌だ、逃げないと」 「逃がすかよ」 人に触られるのをここまで嫌がったのは初めてだ。 前回は俺が触ることに嫌がる様子はなかったのに。 思い出していると、隣にトラが座って命の耳元で何かを囁いた。俺はその場から離れて、琴音とトラと一緒にやって来たユキくんを寝室に入れる。 「み、みこと、どうしたのっ」 ユキくんが不安そうに俺に聞いてくるのを、苦笑を零して誤魔化すことしか出来ない。 あとはトラにどうにかしてもらうしかない。 ベッドに座り深く息を吐いた。

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