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命が怒った

*** 命がここに来て一週間。 まるで私が隔離しているかのように命は貸してあげた部屋から出てこない。 たまに部屋を覗けばベッドに座りどこかを見つめてぼーっとした。 「命、具合はどう?」 「………………」 「これ、痛いでしょう?手当しましょうね」 「…要らねえ」 「ダメよ」 掌にいくつも出来ている傷は命が自ら作ったもの。 手当をしてそのままその手を両手で包む。 「まだ夢を見るの?」 命の目の下にある隈を見てそう言えば力なく一度頷く。 「眠れるように薬あげるから、飲んでみない?」 「……寝たくない」 「怖いの?」 「…怖い。なあトラ、怖いんだよ。何だよこれ、なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけねえんだよ。」 悲痛な叫びに胸が痛くなる。 「大丈夫」なんて言葉も「怖くない」なんて言葉も、もう命を救ってはくれない。 「怖いし、苦しいのはわかるわ。でも体を休めてあげないともっと辛くなる。だから眠りなさい」 「助けて、トラ」 「ええ勿論。だから、ね?」 そう言って命に薬を飲ませて寝かせる。 30分もすれば目を瞑り眠りに落ちた命を見て一息つく。 その間に仕事を終わらせて、次第に魘されて勢いよく飛び起きた命は私に抱きついてくる。そうして肩に額を付けて泣き続ける命はきっともうそろそろ限界。 「命、おやすみ」 「…ん」 背中をポンポンと撫でてあげていると放心した様子から力を抜いて目を閉じまた眠りに落ちる。 「暁に頼むしかないわね…」 ベッドに命を寝かせて、暁に電話をかける。 状況を随一早河から聞いていたのか、命のこと、と伝えるだけで理解して、すぐに私の元までやって来てくれた。

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