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命が怒った
暁がやって来て眠りながら時折涙を流す命を見て悲しそうな顔をする。
「ずっと怖がってるわ。この部屋からはトイレとお風呂以外出ようとしないし、どうにか改善させようと思ったんだけど…」
「何か話はしたか?」
「捨てられるのが怖いとか、殺してやるとか、話をしても結局それしか言わない」
暁に打ち明けると暁は命のそばに寄り、トントンと肩を叩いた。瞬時に目を覚ました命は暁の手を強く掴んで目を見開く。
「あ、お、親父…」
「体調はどうだ」
「…ご、ごめんなさい、すぐ…すぐに戻るから怒らないで、」
「怒ってねえよ。どうした、俺のことが怖いか?」
命は小刻みに体を震わせる。掴まれた手を離させて、代わりに笑いかける暁には私までもが安心した。
「…お、れ」
「ああ」
「俺、捨てられるの、怖いんです…もう、要らないって言われたらって思うと…早く死にたい」
「あのな、俺がお前を拾ったんだ。お前のことを要らないなんて思うくらいなら初めから拾ってなんかいない。」
「そ、そんなの、わかんない」
「わかんねえ事ねえよ。何ならお前をずっと俺の隣に縛り付けておいてやろうか?」
クスクスと笑いながらそういった暁を見て命は首を横に振る。
「でも俺、何もできないから…」
「そんな事ねえよ。ユキの事を助けたのはお前だ。人を助けられるってことはお前が思ってるよりもずっと凄い事だ」
「…そのユキを傷つけちゃった」
「ユキはお前に会えないことで泣いてる。早く迎えに行ってやらねえとユキこそお前に捨てられたって思って絶望するんじゃねえのか?」
「…親父は…親父は絶対俺を捨てない?」
「捨てねえよ、俺はお前を子供みたいに思ってんだからな」
暁は命を優しく抱きしめて「まあ、俺に子供だって思われるのは迷惑かもしんねえけど」と笑う。
迷惑だなんてそんなわけがないのに。
「俺、帰る」
「おう、帰ってユキに一人にして悪かったってちゃんと謝るんだぞ」
「うん」
そういうくせに暁から離れようとしない命に、暁のことを本当に信頼しているのが見て伺える。
「帰るんだろ?送っていくから用意しろ」
「…親父も俺の家に帰ろ」
「わかったわかった」
普段からは考えられない、親子のように見える二人に微笑ましくなる。
暁がいれば命はもう大丈夫だろう。
命は用意を済ませて暁に寄り添われながら建物を出ていく。
一気に肩の荷が降りて安心した私に、あとから暁から感謝の電話がきたのは秘密。
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