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命が怒った
親父から連絡があってユキくんと俺とで命の家で待っている。
ユキくんは命と離れてからずっと不安そうで、最近では泣いて手がつけられないような状態だった。
玄関のドアが開く音がしてユキくんはすぐに反応し、玄関に続くリビングのドアを眺めてじっとしている。
そのドアが開いて命と親父が現れ、俺はすぐ親父に頭を下げたけれどユキくんは一目散に命の元に走り抱きついた。
「命、命っ」
「…ユキ」
「痛い、ない?もう、悲しい、ない?」
命は戸惑ったように親父を見て、それからユキくんと視線を合わせるようにしゃがみこむ。
「ごめん」
「ごめん?何が、ごめんなの…?命悪いこと、してないよ…?」
「…ごめん、俺、酷いことした」
「酷いこと…?ううん、僕、されてないよ」
命の顔をよく見ると目の下にはクマができているし、顔色も少し悪い。トラの所にいたけれどやっぱり良くならない時もある。それを助けたのは親父だったみたい。
「早河、3日間程休んで命の様子見ててくんねえか?」
「はい」
「何かあったら連絡してくれ。すぐに来るから」
「親父がですか?」
親父はいつも忙しい。俺の言いたいことがわかったのか親父は苦笑を零す。
「仕事と息子、どっちが大切かなんて分かりきったことだろ。それに本当なら俺が命の様子を見てなきゃいけねえんだ。」
ユキくんを抱きしめてる命はふいに親父の方を振り返って、ヨロヨロと近付き親父の肩に額を乗せて抱きついている。
「どうした?」
「…痛い、痛い」
「どこがだ」
「痛い」
痛いだけを連呼する命に親父はまた苦笑を零し、命の頭を撫でて「落ち着いて深呼吸してみろ。」と優しい声で言う。
「それから少し眠れ、最近はちゃんと眠れてないんだろ?お前が眠るまでそばに居てやるから」
「…うん」
命を寝室に連れていった親父。
残された俺とユキくんは少しだけ複雑な気持ち。
「…命、痛いって、言ってたの」
「そうだね」
「ハルくんのお父さんは、命のお父さんなの?」
「本当のお父さんじゃないよ」
「早河さんも?」
「ああ」
親父が俺の本当の父親ならどれだけよかったか。
昔を思い出しても仕方が無い。そう割り切ってる俺は過去の事でのトラウマや嫌なことも何一つ無い。
「ユキくん、テレビでも見てようか」
「うん」
少し寂しそうなユキくんと一緒にテレビを見て、親父が部屋から出てくるのを待った。
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