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命が怒った

「うぅ…痛い、痛い」 ベッドに入り胸を押さえて丸くなる俺に親父が優しい言葉を掛けてくれる。 親父の言葉はまるで魔法みたいで、だんだんと痛みが治まって深く長く呼吸を繰り返した。 「親父、帰るの」 「お前が眠ったらな」 「…嫌だ」 「早河とユキはずっといるぞ」 「親父がいい」 小さい頃、本当の父親からはこうして話したことはほとんど無い。ただ俺を叱りつけるだけ、暴言を吐くだけ。俺の気持ちは何一つ聞いてくれなかった。 だから、父親という存在にコンプレックスがある俺は、それを埋めようと似た位置にいる親父に手を伸ばす。 「俺はお前だけの父親じゃねえんだ」 「…うん」 「他の奴らも見てやらないと。寂しい気持ちは命が一番わかるだろ?」 「…わかる」 親父の言葉に渋々頷く。でも俺だって寂しくて悲しくて、だから我慢していたのにまた涙がじわじわと滲んだ。 「泣かなくていい。お前のそばでお前の話を聞いてくれる人は俺以外にも沢山いる。お前は愛されてるんだからな」 「でも、俺の両親は、愛してくれなかった」 「今あるものを見ろ。振り返ったって何にもなんねえよ」 ワシャワシャと撫でられた髪。 温かくて次第に目を開けてられなくなる。 「おやすみ、命」 親父の声が聞こえて、それを最後に眠りに落ちた。

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