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命が怒った

ブランコに乗って遊ぶユキくんの背中をポーンと押す命。 楽しそうな様子に一安心する。 「やっほ」 「うわ…お前か…」 「何やねん俺で悪かったな」 「誰もそんなこと言ってねえだろ」 ベンチに座っていた俺の後ろから飛びついてきたのは久しぶりに会う琴音。 「あれ、命さん元気なってる」 「ああ。ついさっきな」 「よかったやん。……傷は?ちゃんと癒えてるん?」 「……それは何とも言えねえな」 きっとこの先ずっと命の心の傷は消えることはない。命が過去を受け入れるか、否かでこれからのことが全て決まる気がする。 「命さんはずっと我慢しててんな。」 「…そうだな」 「なんか、全然気づいてあげれんかったから、ちょっと申し訳ない」 「何でだよ。お前はそんな気持ちは感じなくていい。…俺は昔からあいつのそばに居るんだ。俺が気づいてやらなきゃいけなかった。」 「…大和もそんなん思わんでええと思うけどなぁ。」 隣に座った琴音はブランコで遊ぶ2人を見つめる。 ユキくんと目が合ったのか、手を振ってる姿を命が見て、命の手が止まった。 「あ、何かまずいことした?」 「いや、大丈夫だと思う」 今の命は一体何を考えているかわからないから危うい。 突然、ユキくんの乗っていたブランコを止めて、ユキくんを抱っこする。かと思えば公園の外に向かって歩き出して急いでそれを追いかけた。 「命!おい、どうした」 「……帰る」 「何でだ。」 「…わかんね。帰りたくなった。」 「………。ユキくん、帰ってもいいかな?」 命は何でもないことのように帰ると言い張る。けれどユキくんはどうなんだろう。じっと自分を抱っこする命を見上げて、「帰るの?」と聞いたユキくん。命はその言葉に一度頷いた。 「じゃあね、あの滑り台、1回だけしてもいい…?」 「………うん」 滑り台まで戻ってユキくんを離した命。 どこかソワソワしていて一度滑り台を滑ったユキくんが帰ってくるとまた抱き上げて家まで足早に向かう。 「命、待てって」 「あ?」 「どうしたんだよ。」 「…うるさい、今はユキと話したい」 宝物のようにユキくんを抱きしめる命。 ユキくんが「苦しい」と腕の中で言えば力を弱めて「ごめん」と言う。 「帰ったら、ユキと遊ぶよ」 「本当ぉ?あのねぇ、絵本読んでくれる?」 「いいよ」 ユキくんと話している時は笑顔で、そうして琴音もつれて命の家に帰ると手を洗いすぐにユキくんに本を読んであげている。 「何か、変やな」 「…ああ」 「俺がユキくんに手振ったからかな。何か一人になるのが嫌なんやろ?ユキくんを取られると思ったとか…?」 「…かもしれねえな」 琴音とひそひそ話していると「ユキ?寝たのか?」と絵本を置いて自らの膝に乗り座っていたユキくんの顔を覗き込む。 「…寝ちゃった」 「ソファーにでも寝かしといてやれ。」 「うん」 命はそっとユキくんをソファーに寝かせる。 それから絵本を片付けて、ベランダに行き煙草を吸い出した。 「やっぱり変やな」 「…まあ、少し時間が経てば戻るだろ」 「…そう?ちょっと不安やけど」 「あまりにおかしかったら親父に相談する」 「うん」 命の背中を見ながら、少し、不安に思った。

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