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イフストーリー 大学生 『青年くん』
高校までで学校に行くことを辞めた俺からすれば、ユキが自分で考えて努力し、新しい道を歩いているのは凄いと思う。
「大学生かぁ……」
「命見てぇ! 命の服借りた!」
「うんうん、似合ってるよ。」
こういう所は全く昔と変わらないけれど、学力とか考えてることはぐんぐん成長して、今や立派な大学生になったユキ。
「友達できるかなぁ?」
「できるよ、ユキは優しいから。」
「……命は俺に友達できるの、嫌じゃない?」
「何で?」
座ってる俺の前までやって来たユキ。
腰に腕を回して引き寄せると、大きくなった手が俺の頭に触れて髪を乱す。
「命の俺じゃなくなるみたいで、嫌じゃない?」
「……そう言われると嫌だけど、ユキの周りに人が増えていくのは嬉しい。でも、ユキに意地悪する奴らは俺が潰すよ。」
「潰しちゃうの?」
「もちろん」
ユキが一番な俺にとって、ユキを少しでも傷つける奴は消さないと落ち着かない。
「今日から講義が始まるんだろ? 早めに行って良い席取らないとな」
「良い席? 何それ」
「んー、後ろの方の席?」
「あ……本当だね。前だと緊張しちゃうかも」
車の鍵を持ち、シロに留守番を頼んでユキと一緒に家を出る。
「一人で学校行けるよ?」
「毎日は送れないけど、できる時は送りたいの。」
「寂しいの?」
「うん。」
素直に言うと、ユキは俺の手を掴んで指を絡ませる。
「俺も寂しい。でもね、楽しみでもあるの。頑張ってくるから、応援してくれる?」
小首を傾げてそう言うユキに、頷く他なくて二、三度首を縦に振った。
車に乗り、大学に着くと緊張した様子で車から降りるユキ。
窓を開けて「いってらっしゃい」と伝えれば、眉尻を下げて「怖い」と言う。
「何かあったら電話しておいで。今日はいつでも迎えに来れるようにしておくよ。」
「……命」
「どうしても怖いなら、帰る?」
いつでも逃げ道は用意してある。
ユキが嫌な事はしなくていい。
甘やかしすぎかもしれないけれど、嫌じゃなくなってから、また挑戦すればいいだけの話だ。
「ううん、行ってくる。」
「ああ。帰りは迎えに来るから。」
「ありがとう。いってきます」
くるっと振り返り、大学内に入っていく。
そんな姿を見て鼻の奥がツンとなった。
あの子供が、こんなに成長したんだなと思って。
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