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イフストーリー 大学生

 命と離れて教室まで行く。  いい席を取らないと……と思って、講義室の一番後ろの右端の席に腰掛けた。  少し早く着いたから、教室にはちらほらとしか学生はいない。 「こんにちは」  緊張しながら筆記用具を机に出していると、突然声を掛けられてびっくりして肩が上がった。 「は、はいっ!」 「あ、ごめんね。驚かせちゃった」  振り返ってみると、赤石さんと同じく金色の髪をした男の人がいて、何故か俺の隣に座った。 「俺は畠中(はたなか)凌平(りょうへい)」 「あ……俺は黒沼ユキです。」  長い前髪の間から、薄い茶色の瞳が覗く。 「ユキはハーフ?」 「ハーフ……?」  ハーフって、何だっけ。  ハーフは半分ってこと。俺にハーフってきいたってことは、えっと、えっと……。 「ち、違うよ!」  俺はただの人間だから、否定する。 「違うんだ? なんか、日本人離れした顔してたからそうかと思った。ちなみに俺はハーフだよ。」 「え、何の……?」  凌平君はただの人間じゃないの?  その意味を込めて聞く。 「アメリカ。母さんがアメリカ人で、父さんが日本人ね。」 「……そういうことかぁ。」  ハーフってそういう意味なんだ。  命に教えてもらってないことが、まだまだたくさんあるんだと知った。 「ん? そういうことかって?」 「えっと……ううん。なんでもない」  凌平君と話をしていると、教室に学生が増えてきて、チャイムがなる頃には先生がやってきた。  前の席に座る長い髪の毛をクルクルにした女の人がくるっと振り返ってくる。 「ねえねえ、私カナっていうの。名前教えて?」  綺麗に化粧がされた顔。  赤いリップを見て、ついついお母さんのことを思い出した。  ヒュッと喉が鳴り、無意識にその子から離れようと体が後ろに反れる。 「俺は凌平。こっちはユキ。ごめん、こいつすごい人見知りだから放っといてやって。」 「あ、そうなんだ。ごめんね」  困ったように笑ったカナちゃんが前を向くと、少し苦しかった呼吸が楽になった。 「ユキ」 「ぁ……な、なに?」  俺の耳元に口を寄せた凌平君が、そっと囁く。 「お前、女が苦手?」 「……そう、みたい」  俯くと、背中を撫でられた。 「大丈夫。何かあったら助けてやれるから安心しな」  ついさっき出会ったばかりの俺に、こんなに優しくしてくれるなんて。 「ありがとう」  凌平君はいい人だ。  この人と友達になりたい。

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