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イフストーリー 大学生

 講義が終わって、今日は全く同じ講義をたまたま取っていた凌平君と自然と一緒に行動することになった。 「家近いのか?」 「うん。まあまあ近いと思うよ。」  凌平君が振ってくれる話題で会話をし、講義は真面目に聞いて昼休みになると食堂で一緒にご飯を食べることになった。  バッグからお弁当箱を取り出す。 「ユキは弁当? 母さんが作ってくれんのか?」 「ううん。俺の恋人」 「え……。女苦手なのに付き合ってんの?」  その質問には苦笑を返した。  大学に入る時、命に言われたんだ。男の命と付き合ってるって言っちゃダメだって。それが俺のためだからって。 「弁当作ってくれるってことは、同棲してんの? 年上?」 「そうだよ」 「……お前、やるな。」  肩を軽く叩かれて不思議だったけど、とりあえず頷いてみた。 「どこで出会ったんだよ」 「えっと……公園?」 「はぁ? まさかお前が遊んでたわけじゃないだろ。何してたんだよ」  思い出すのは初めて命に会った時の光景。  ついつい苦しくなって俯く。 「あ、悪い……。もしかして女苦手なのと関係してんのか。今の質問は忘れてくれ」 「う、ううん、大丈夫。俺の方こそごめんね。」  嫌なことが多いと周りに気を使わせてしまうってことを初めて知った。  今まで周りにいた人達は俺の事を知っていたから、気まずい状況にはならなかったし、凌平君にされたような質問はしてこなかったから。 「ユキはどこ高出身?」 「高校? 俺は高校行ってなくて……。高卒認定試験で……」 「へえ。頭いいんだな」 「そうなの?」  試験を受けるって決めた時は、トラさんが沢山勉強を教えてくれた。それに時々ヒヨくんにも教えてもらって、すごく楽しかった。 「塾とか行ってたのか?」 「ううん。知り合いのお医者さんと、友達に教えてもらってたんだ。」 「医者が知り合いか。」  そんな話をしていると、こっちをチラチラと見ていた女の人二人が近付いてきて、体が強ばった。 「ねえ、一緒に食べてもいい?」  首をコテっと傾げる女の人。  俺をちらってみた凌平君が突然立ち上がり俺の腕を掴む。 「用事あるから、ここの席使っていいよ。ユキ行くぞ」 「あ、うん!」  お弁当箱を片付けて急いでバッグを持ち立ち上がる。 「ごめんね、迷惑かけて……」 「迷惑じゃないよ」  凌平君を追い掛けて、別の場所に移動した。

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