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イフストーリー 大学生

「とりあえず服着替えて、疲れただろうから昼寝でもするか?」 「うん」  命に促されて、服を着替え、ソファーに寝転んだ。  床に座って、俺の頭を撫でてくれる命は、優しい表情をしている。 「明日は楽しい一日になるといいな。」 「うん。皆と仲良くしたい」 「できるよ。ユキは優しいから」  頬にキスをされて、胸が温かくなる。  命の手に頬を押しつけて、そのまま目を閉じた。 ***  次の日も、命に大学まで送ってもらい、講義室の一番後ろの右端に座る。  講義の始まる十分前に凌平君が来て、隣の席に座った。 「昨日、俺と別れてから大丈夫だった?」 「あ……ぁ、うん。大丈夫」 「ならよかった。今日も彼女さんが迎えに来るのか?」 「うん。暫くは送り迎えしてくれるって。」  命はお仕事がある。今は忙しくないから送り迎えをしてくれている。 「へぇ、優しいんだな。」 「うん」  講義が始まり、先生の話に耳を傾ける。 「ユキはバイトしてんの?」 「バイト? してないよ?」  凌平君はノートを開き、スマートフォンを弄りながらそう聞いてきた。 「同棲してるんだろ? 家賃は? 折半じゃねえの?」 「えっと……全部、向こうが……。バイトしたいって言ったことあるけど、ダメって言われたし……」 「え、ダメって言われんの? ……いやでも、お前みたいなイケメンなら外に出すのも不安になるか。」 「あ、りがとう?」 「いや別に褒めてねえわ」  凌平君はくすくす笑って、俺の前にスマートフォンを出してくる。 「連絡先交換してくんね?」 「あ、も、もちろん!」  俺もすぐにスマートフォンを出して、凌平君と連絡先を交換した。  トークアプリの友達の数が増えて嬉しい。 「俺の高校の先輩が、一学年上の同じ学科なんだけど、テストの過去問とかくれるから、それユキに送る。」 「本当っ? 実はね、勉強難しそうって思ってたから……すごく嬉しい!」  スマートフォンを握りながら凌平君に向かって 「ありがとう」って伝えると、凌平君は呆れたように頬杖をついて息を吐く。 「お前、彼女にもいつもそんな感じ?」 「え、うん。」 「そりゃあ落ちるわ。そんな笑顔されたら皆お前のこと好きになるわ。」 「そうなの? じゃあ笑顔でいた方がいい?」 「やめとけ。お前の彼女が嫉妬で狂う」  命が狂う!? それは絶対にダメ。  慌てて頷くと、凌平君はまたくすくす笑って、何故か俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。  休み時間になり、次も同じ講義を取っていた凌平君と教室を移動する。 「今日の昼飯は? また弁当?」 「うん」 「本当、愛されてんな。」  その道中でばったりとカナちゃんに会った。昨日カナちゃんといた女の子達も一緒だ。 「あ、ユキ君に凌平君!」 「あー……カナちゃんだっけ?」 「うん! あ、もしかしてこの講義取ってる?」  どうやら向かっていた場所は同じみたい。  次第に呼吸が苦しくなっていくのを感じて、逃げるようにトイレの個室に駆け込んだ。

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