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第16話

「っん、はぁ…っぁむ…っ」  離れたかと思った唇は、また直ぐに降ってくる。 「本宮さ…っ」  重ねすぎた唇はどちらも熱をもち、熱い。おかげでちゅ、ちゅ、と軽いバードキスさえも、興奮剤になって俺を昂ぶらせた。 「続き、する?」  そう聞いてくる本宮さんも、俺ほどではないが随分と息が上がっている。その瞳は熱っぽく、間違いなく欲情している。他の誰でもない、俺にだ。  嬉しさにごくりと喉が鳴る。願ってもないことだ。 「続きっ……あ!俺、風呂、風呂入ってない…!先に、シャワーとか…」 「俺はちゃんと会議の前に入ったから安心して」 「いやいや、俺の話ですっ!俺、汚いですって…っ」 「大丈夫」 「だって、二日も…」  だめです、と答える前に、本宮さんの膝が俺の脚の間に割って入ってきた。そのまま膝頭で股間を押し上げてくるので、俺は慌てて声を上げた。 「ま、待っ…!」  制止の声は、本宮さんの口の中に飲み込まれた。くち、と粘膜の絡む音を立て、キスが深くなっていく。膝はなおも俺のものをゆるゆると刺激していて、俺はますます焦った。  やばい。これはやばい。風呂云々ではなくこれはまずい。  何とか首を振ってキスを逃れ、慌てて本宮さんに訴えかけた。 「っあ、ん、まっ、待って、ま…っ」 「待てない…嫌?」  不満そうな声に、一瞬抵抗を止めてしまった。違うのだ。嫌なんかじゃない。本当に、少し待ってほしいだけなのだ。 「ちが、そじゃ、あっ、――――ッ!!」  ぐ、と本宮さんの膝に力を入って、びくびくと意思とは関係なく体が跳ねた。 「あ…あ……」  目を潤ませてひくひくと震える俺に、本宮さんが目を丸くした。本気で驚いている顔だ。 「え、嘘…もしかして、イっちゃった?」 「うっ…」  俺はあまりの羞恥に顔を両手で覆った。言葉通り、俺は吐精してしまっていた。パンツの中がぐちゃぐちゃで、粗相をしてしまった気分で泣けてきた。 「違うんです!いつもはこんなんじゃないんですっ!もっと、もっとずっと長持ちなんです!きょ、今日は…ほら、寝てないから!疲れてるから仕方ないんです!本当です!」  俺は慌てて言い訳を並べ立てた。またしても情けない姿を見られてしまった。早漏と思われたらどうしよう。本当に、本当に、こんなに早くイってしまったのは今日だけなのに。  こんなはずじゃなかったのだ。本宮さんと初めてやるセックスは何度も何度も頭の中でシミュレーションしたのに。 「可愛い」  クスリと笑い声とともに降ってきた声は、どこか楽しげだった。 「別に早漏でも構わないけど?」 「そぅっ……だから、違うんです…っ」  恐る恐る顔から手を外してみれば、本宮さんは弾んだ声の通り上機嫌に目を細めている。 「うんうん、疲れマラって言うもんね。早く出ちゃっても仕方ないね」  まるで幼子を宥めるような言い方に、俺は弁解を諦めた。もういい。本宮さんが笑ってくれるなら、早漏野郎のレッテルも甘んじて受け入れてやる。  そんな決意を固めていると、かちゃかちゃと金物がぶつかる音が響いてきた。見れば、本宮さんの手が俺のベルトに掛かっている。さっと引き抜かれたベルトはそのまま床に放り投げられ、手は淀みなくズボンの前を寛げていく。 「ちょ、本宮さん!」 「さてさて、御開帳」 「ごっ、御開帳って…!あっ!?」  慌てて止めようとした手はするりと宙を掻き、ズボンはずるりと引きずりおろされてしまった。  見られるのは別に構わない。構わないのだが、それは通常時であって、こんな漏らしたみたいになっているところじゃない。 「はは、染みてる。結構たくさん出た?」  本宮さんはじっと俺の股間を見つめ、ついにそこに触れてきた。そこはじわっと大きな染みができてしまっているうえに、すでに出したというのに俺の息子はまだ元気いっぱいに存在を主張していた。 「んっ!あ、触るの、待ってくださ…っぁ…!」 「すげーぐちょぐちょ。ハルちゃんやらしーな」 「んんっ」  ぬるぬるとした感触と、本宮さんが円を描く様に擦りあげてくる刺激に、腰が揺らいでしまう。  しかしそれ以上に、俺はどうも本宮さんの綺麗な顔から下ネタや、いかがわしい言葉が出てくるのに耐えられないらしい。どうしようもなく恥ずかしくて逃げるようにぎゅっと目をつぶってしまう。  すると瞼の上にキスが落ちてきた。それと同時に、ずるりとパンツも引き下ろされる。ねっとりと引いた糸を絡め取って、本宮さんの手が直にそこに触れてくる。 「あ、あ…あ…!」  触ってる。本宮さんの手が、あの指が、直接、俺のに触れてる。触れる手には同じ男のものに対する嫌悪感など無さそうだ。嬉しい。 「あう、あ、あ…俺も、さ、触りた…っ!」  長い指から贈られる刺激に息をつめながら、俺は本宮さんのスーツに手を掛けた。俺ばっかり気持ちよくなってたら駄目だ。俺だって本宮さんに直に触れたいのだから。  俺が服を脱がそうと躍起になっているのを見つめる本宮さんは愉しそうだ。くすくすと笑いながら俺の性器に触れる手を止めはしないため、体が震えなかなか上手く脱がせられない。なんだか、遊ばれている気がする。  何とかベルトのバックルを外し、スラックスのフロントを下ろしたところで、妨害するかのように俺のものを触る手の力がぎゅっと強まった。 「あっん…!!」  そのままぐちぐちと扱き上げられ、その強い圧迫と滑りに、俺はあっという間に二度目の精を放ってしまっていた。本気で早漏になってしまったのかもしれない。ショックだ。 「そんな気持ちよかった?」 「はい…あの…俺も、触りたいんですけど…」  じとっと本宮さんを見上げると、本宮さんは一度起き上がり、「ちょっと待って」と言って違う部屋に行ってしまった。  ぽつんとソファに残された俺は、なんでどっか行っちゃうんですか…と不安になりそうだったが、本宮さんは直ぐに戻ってきてくれた。そしてそのまま潔く服を脱ぎ始めた。続行らしい。  その姿にドキドキしながらも、俺も汚れてしまったシャツを脱ぎ、下だけ裸という間抜けな格好から脱却した。  ちらちらと盗み見た本宮さんの体は、無駄な贅肉などなくすらりとしている。肌理の細かい白い体は、はっきり目立つ筋肉はないが、しっかりとした男のものだ。視線を下に下げていけば、雄の象徴も拝めた。うおお、勃ってる。剥けてる。まさか自分が男性器に興奮してしまう日がこようとは…! 「そんな珍しい?同じでしょ?」 「あああああ!す、すいませ…っ」  盗み見ているつもりがガン見してしまっていたらしい。慌てて手を振って謝り倒すと、その手を取られ、またソファに押し倒されてしまった。今度は首は痛くない。 「触ってくれるんだよね?」 「は、はい…!」  圧し掛かってくる本宮さんの下肢に震える手を伸ばす。何度か触れる妄想したけれど、実物には熱がある。熱いそこを力を込めてさすってみると、ピクリと震えた。 「ん…っ」  間近にある本宮さんの唇から甘い声が漏れる。少し掠れたそれは紛れもなく快感を示すもので、俺は嬉しくなった。裏筋を何度も撫で上げ、先端の部分に指の腹を当ててみたり、どこが一番気持ちいいのか手探る。  それに夢中になっていると、俺の性器にも本宮さんの手が伸びてきた。 「あ…っ!」 「また勃ってる。元気だね」  そう言う本宮さんの顔は、快感のためか僅かに眉根が寄せられており、酷く艶めかしい。あんな声を聞かされ、そんな顔を見せつけられたら、なにもせずとも勃ってしまったって仕方ないと俺は主張したい。 「ん、ぁ…っ」  ただでさえ近くに会った本宮さんの顔がより近付き、距離がゼロになった。  そのまま舌を絡め合いながら、互いの性器を扱きあう。くちゅくちゅという音が口元と下肢から響き、空気がより一層淫靡なものに変わっていく。 「はぁ…っあ…」  キスの合間の途切れ途切れの吐息はどちらのものともつかず、本宮さんと快感を共有している幸せに俺は酔いしれていた。  のだが。  本宮さんの手が俺のペニスから離れたかと思うと、戻ってきたそれはあらぬところに触れてきた。 「うぁあっ!?」  俺は思わず素っ頓狂な声を上げ、体を跳ねあげた。 「あれ…冷たかった…?温感タイプなんだけど」  本宮さんは頬を上気させながらも、不思議そうな顔で尋ねてくる。  本宮さんの指は俺の後ろの窄まりに触れているのだ。くるくる円を描く様に触れてくる指は性器から滲んだ先走りではなくふんだんに滑っていて、じんわり温かい。温感タイプとは、ローションのことか。 「びっくり、して……ヒィっ」  指の先が、ローションの滑りを借りてめり込んできて、俺は悲鳴を上げた。  なんだかナチュラルに俺が抱かれる側になっている。というか、なんか、本宮さん手際良過ぎないか。いつの間にかローションなんて準備して。というかなんで今、ローションなんてあるのだろう。しかも温感。  男同士の知識などないであろう本宮さんを俺がリードするつもりだったのに。頑張って予習してたのに。  しかし、本宮さん相手ならば抱く側でも抱かれる側でもどちらでもできる覚悟をしていたはずなのに、いざ尻に指を突っ込まれると少し怖い。自然と体は強張って、侵入しようとする指を拒んでしまう。 「痛い?」  ちゅう、と頬にキスを落としながら聞いてくる本宮さんに聞かれ、俺は無言で首を横に振った。  ――怯むな、俺。男だろ!  深呼吸してなんとか体の力を抜くと、入口で留まっていた指が一気に押し入ってきた。 「んぁっ、あ!」  ずっと押し入ってきたものを思わず締め付けてしまう。しかし本宮さんの指は閉じることを許さないとばかりに中でぐっと指を曲げる。 「ああ!ふ…ぅ……んっ」  ぐちぐちと粘着質な音が体の中から響いてくる。厭らしい音を立てているくせに気持ち良さはまるでなく、違和感ばかりが俺を襲う。むしろ首筋を舐め上げてくる舌の方がぞくぞくとした痺れをもたらしてくる。  こんなことなら、尻に指突っ込んで開発しておけばよかった。 「は…っ」 「気持ちいいところ、教えてね」  そう言った本宮さんは俺の首をかぷかぷと甘噛みしながら、中に埋めた指を探るように動かした。  ぐにぐにと腹側の壁を漁る指がある一点をかすめた時、俺の体はこれ以上ないくらい震えた。 「んあっ!そ、そこ…っ」  たぶん、そこが前立腺というやつなのだろう。 「ここ?ちょっとはってる…気持ちいいの?」 「ん…っあ、あ…っ気持ちい、っていうか…っ」  よすぎる。そこを撫でられるたび、びりびりと電気のようなものが体を奔り息が詰まる。 「腰、動いてるよ」 「あっ…あ、あぁっ!や、や、だ…っ、も、そこ!」  本宮さんは俺の反応が気に入ったのか、お気に入りのおもちゃを手に入れた子供のようにそこばかりを弄ってくる。  俺はやめてくれと懇願した。よすぎて嫌なのだ。強すぎる快感に、頭がおかしくなりそうだ。 「ハルちゃん、すげーエロい顔してる」  自分がどんな顔をしているかなんて知らない。だけど、じっと本宮さんが顔を見つめてくるのが恥ずかしく、俺はソファの背に顔を隠すように埋めた。部屋は明るい。本宮さんが良く見えていいと思っていたが、よく考えてみれば本宮さんにも俺が丸見えということだ。 「なんで隠すの。真っ赤になって…エロくて可愛いのに」 「っ!あ、ぁ…!」  ぐちゃ、とぬめりが増した。ローションが注ぎ足されたのだ。ずるっと指が引き抜かれ、今度は二本になって挿入される。 「あぁぁっ…ひ、ん…っ」  もう、ありがたいことに違和感より快感が勝っていた。後孔の淵を指が擦るのはぞわぞわとし、前立腺を圧す二つの指の腹はじんじんと性器に直結した快感をもたらす。 「ここ弄るの慣れてる?」 「はっぅ…はじ、はじめてっ!ぁんっ…!初めてですっ!」  とんでもない、と慌てて応えながら、俺は本宮さんの声が少し遠くなったことを訝しんで顔をちらりと上げた。そしてぎょっとした。本宮さんは体を起こし、興味深々とばかりに指をおさめている場所を眺めていた。 「やっ、ちょっ…あっ、そんなとこ…っ見ないで、くださ…っ」 「初めてなの?ハルちゃん、ヤラシイ体してる。ほら、指、すごい締め付けてくるし…」 「ひっ…ああぁ…!」  本宮さんはぐっと俺の腰を持ち上げ、中に入れた指を開いた。そのせいで俺にも見えてしまった。俺の後孔は開いた指を閉じさせようとぎゅうぎゅうと締め付け、真っ赤になった淵と指の隙間からはローションが零れ出る。 「すごく気持ち良さそ。ほら」  そのまま、本宮さんは指を動かして見せた。そのたび、痛いほど勃ちあがった性器からは透明な蜜がこぷりと零れた。 「や、もう、やだ、やだぁ……!死ぬ…っ」  俺は人類史上初めて、恥ずかしさで死ぬ人間となるのだ。ずっと堪えていた涙腺は決壊してしまい、涙がぼろぼろと溢れ出ていく。それを見る本宮さんは、どこか楽しそうだ。なんてことだ。 「死なないから大丈夫だって」 「あぅっ、あ、あ…!死んじゃいますっ!もう、も、いいです…んっ、早く、挿れてくださいっ!!」  とにかく早くこの状況から抜け出したくて、俺は叫んだ。 「挿れてだなんて、積極的」  愉しそうに言う本宮さんが、ぺろりと舌舐めずりした。その仕草にどきりとしながらも、やっとこの恥ずかしさを解除できるとほっとした。  しかし、それは甘かったらしい。 「でもまだまだ。苛めるのは好きだけど、痛い思いをさせるのは好きじゃないから」 「ええっ!あ、ああ!」 「しっかりたっぷりほぐさないと、怪我するからね」 「ぁあああ…っ」  にこにこと笑う本宮さんは指を抜くことはせず、そのまま三本目を足して延々とそこを掻きまわす。  意識が飛びそうなほどの快感と、こんな浅ましい姿を晒してしまっている羞恥に、俺はもう訳も解らずしゃくりあげながら体を震わせた。  やっと指が抜かれた頃には、俺の顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだし、後孔はじんじんと熱をもって痺れているし、触れられないペニスは解放を待ち望みすぎて痛んでいた。 「うぅ…っ」 「やりすぎちゃった?ハルちゃんが可愛いから、ついつい…」  ぐずる俺に、本宮さんは苦笑しながら口づけてきた。泣いてしまって情けないし恥ずかしくて気持ち良くてどうしようもないけれど、本宮さんだと思えば許せた。キスにもごもごと応えながら、頭を撫でてくる手にうっとりと目を閉じた。 「ん…っ」  ひたりと、指がなくなってひくひくと疼く孔に熱が押し当てられた。 「あ…」  本宮さんはちゃっかりゴムまで装着済みだった。だから、なんでそんなに手際がいいのだろう。 「力抜いて…」  囁くように耳元で言われ、俺は息を吐いた。ぐっと先端が押し入ってくる。それだけで苦しくて、俺はぎゅっと唇を噛みしめた。  あれだけ散々解されてこれだ。さっさと突っ込まれていたら出血騒ぎになっていたかもしれない。 「傷になる」  本宮さんはそっと俺の下唇を指でなぞり、口を開けさせた。本宮さんの方も顔が少し歪んでいて、きつそうだ。 「噛んでもいいから」  今まで浮いていた本宮さんの体が降りて、俺とぴったり肌が重なった。俺は本宮さんの背中に手をまわし、さらにぎゅっとひっついた。どきどきと互いの心臓の音が聞こえ、心地好い。俺の眼前には本宮さんの首筋がある。噛んでもいいって、ここのことだろうか。噛むんじゃなくて、キスマークを付けてみたい。  恐る恐る、そこに唇を寄せたときだった。 「――――――ッ!!」  ぐいっと一気に下腹部に熱が入り込んできて、俺は声にならない悲鳴を上げた。信じられない痛みと圧迫感に、思わず目の前の肌に噛みついてしまっていた。痛みをやり過ごそうと、顎に力が籠ってしまう。 「っつ…っ」  耳元に痛みを堪える本宮さんの声が聞こえ、俺は慌てて口を放した。しまった。 「すみませ…っ」 「いいって、言ったでしょ。…大丈夫?」 「ぅ、は、はい…」  苦しさはしっかりあるが、大きな痛みの波は直ぐに引いていった。 「すごい熱くて気持ちいい」  ちゅっと耳にキスをしながらクスクスと笑い混じりに言う本宮さんに、俺はかあっと顔を熱くした。少しだけずくずくと疼くそこに、確かに脈打つ熱を感じる。今、本宮さんの一部が俺の中にあるのだ。 「あ、あう…そ、れは…よかったです…」 「動いても、大丈夫そう?」 「ん…は、い…っ」  俺が頷くと、本宮さんはゆるゆると律動を開始した。たっぷり注がれたローションのおかげで、引きずられるような痛みは起きなかった。  僅かに体を起こした本宮さんは、熱い息を吐きながら目を細めた。 「っはぁ…っすごい、気持ちいい。締め付けてんのって、わざと?」 「そんな…わか、りません…!ああっ!んっ!」  急にストロークが大きくなって、口から甲高い声が漏れた。 「ん、あ、あ、あ…も、本宮さ…っ!ひんっ…!あ、まって、ゆっくり…っ」  ズプズプと、ローションが泡立つ音が聞こえる。大きく引き抜かれた本宮さんのペニスは、直ぐに前立腺を抉るようにかすめて、ぐっと奥に押し入ってくる。 「あっ、あ…!」  前立腺は言わずもがな、奥を突かれるとそこがきゅんと疼いて、嬌声が上がってしまう。僅かな痛みすら、気持ちいいと錯覚してしまう。 「あ、も、もう……っ」  限界だ。もうイきたい。挿入の痛みで僅かに萎えかけていたものは、しっかり復活して僅かに色づいた先走りを零してしまっている。それでも、直接の刺激がなければ達けやしない。  俺は本宮さんの背に回していた右手を、急いで下肢に異動させた。涙を零し揺れる俺の息子を早く慰めてやらねば。 「ん…まだ、だめだよ…っ」 「い…っ!」  今まさにペニスに触れそうだった俺の手を、本宮さんの手が弾いて退けた。そしてそのまま、ぎゅう、と俺のものの根元を握って戒めてしまう。 「やっ…、もとみやさ…っな、で…っ」  これじゃあ触ってもイけない。むしろ苦しくなるばかりだ。しかし本宮さんはグラインドを休めないまま、手も緩める気配がない。 「俺、まだだから……さすがに三回もイっちゃったら、あと、キツイでしょ」 「ん、は…っ」  確かに、そうだ。イったあとにこんなガンガン突き上げられたら俺、死ぬかも。こうなったら、本宮さんに早く達してもらうしかない。 「もう、も…本宮さん、はぁっ…早く…っ」  どうしたらいいか解らず、とりあえず目の前の肌にちゅっちゅと唇を落とし、ぺろぺろと舌で愛撫を施す。しかしそれにはあまり意味もないようで、本宮さんはくすぐったそうにくすくすと笑いを零す。 「ハルちゃん、ねぇ…っん…名前、呼んでよ…」 「なまえ…んっ…」  甘い声で強請られ、嬉しくなった。俺は荒い息の間に、本宮さんの名前を呼んだ。 「あ、あ…り、理人、さん…っあ」 「もっと…」 「理人さ…り、理人、理人…っ!」  名前を呼ぶたび、胸が幸福感でいっぱいになる。俺は夢中で名前を呼び続けた。 「んっ…」 「あ…っ」  ぐっと一番奥まで押し入ってきた本宮さんが、そこで動きを止めた。同時に俺の性器を戒めていた手を解き、そのまま扱き上げるように動かした。 「あ、理人さ…あぁ―――っ!」  体の奥から熱いものが一気に湧き上がり、びくびくと魚のように体を跳ねあげながら、俺はやっと白濁を吐きだした。体の中では本宮さんのものが、俺のと同じように大きく脈打っている。本宮さんを見れば、ぎゅうと柳眉が寄せられ、口がひくっと動いている。その表情に、さらに心臓が締め付けられた。  今まで感じたこともない壮大な絶頂に、俺は自然と涙を零し、喉をひくひくと鳴らした。 「は…っはぁ…っ…はぁ…」 「んぁ…はぁ…」  ずるり、と俺の中から本宮さんが抜け出ていく。その喪失感に少し切なくなった。 「理人さん…」 「ん」  名前を呼べば、応えるように優しいキスが降ってくる。 「俺も、名前、呼んでください…」  気持ち悪いかな、と思いつつも思いっきり甘えるように頼んだ。別にハルちゃんでも良いんだけれど、どうせなら、しっかりファーストネームを呼んでもらいたい。  本宮さんはふっと微笑んだ。 「ハルカ」  うん、解った。俺、今日から改名する。漆原晴佳はるか になる。だからいいんだ。  壮絶な哀しみと共に固い決意をしていると、本宮さんがぷ、と噴き出した。 「嘘だよ。――ハルヨシ、好きだよ」  とびきりの笑顔を付けて、初めて…そうだ、初めてだ、はっきりと好きだと言ってくれた本宮さんに、つんと鼻の奥が痛んだ。  嬉しい。幸せすぎる。  この甘ったるい空気をもっと堪能しようと、俺は本宮さんに手を伸ばそうとした。のだが。  本宮さんの目が丸く見開かれた。  え? 「ハルちゃん、鼻血出てるぞ!」  ………なんかデジャヴ。  その後は、甘い雰囲気など欠片もない、本宮さんの大爆笑がいつまでも続いた。

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