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第3話
羽田から飛行機で約三時間。
俺は那覇空港に来ていた。
逃げるなら、勝司との思い出が一切ない土地。
じめっとした俺の心を払拭してくれるような、美しい場所がいい。
そんな安易な理由で沖縄を選んだ。
民宿からの迎えが出入口付近で待機しているとメールにあったが、どこだろう。
慣れない空港ロビーを人波に沿って歩いて行くと、予約した民宿の名前が書かれたホワイトボードを持った男が立っていた。
男は無精で切っていないだけと思われる癖のある長めの髪と野性味のある風貌がマッチしており、男の色気を醸し出し、真っ赤なアロハシャツと白の七分丈のパンツをも着こなしている。
「あの……」
「杉浦さんですか?」
「はい。予約した杉浦涼太です」
「どーも。民宿がんじゅーの大城です」
男は俺の手から旅行鞄を受け取ると、たれ目がちな目を細めて微笑んだ。
「車、あっちに停めてあるんで付いて来て下さい」
言われるままに付いて行くと、白い軽トラに辿り着いた。
「すいませんね。空いている車がこれしかなくて」
「いえ、迎えに来て頂けるだけでありがたいです」
商用車の硬いシートに座り込み、緑豊かな景色を横目に暫く揺られていると、賑やかな街並みが見えてきた。
沖縄独特の街並みに、遠くへ来たのだと改めて実感する。
「乗り心地悪いでしょ? 酔ったりしていませんか?」
「大丈夫です」
優しい気遣いに素っ気なく返し、流れる景色を見続けた。
街を抜け、再び景色が木々へと変わる頃、ふと思い出した。
同棲を始めた年のクリスマス。
送りあったプレゼントがどちらもネクタイだったのを見て、どこまで似てるんだって笑いあった。
勝司は俺の就職が決まりますようにと、俺にネクタイを巻き。俺は勝司が仕事を頑張れますようにと応援の気持ちを込めて勝司にネクタイを巻いた。
何の儀式だよって、お互い照れ笑いしてベッドへとなだれ込んだっけ。
――幸せだったな。
あの時はずっとそんな時間がずっと続くんだと思っていたが、そうはならなかった。
数か月後、勝司は……。
「着きましたよ」
男の呼びかけに、過去に飛ばしていた意識を引き戻すと、目の前にはがんじゅ―と書かれた看板を掲げた建物があった。
「こちらです」
俺の旅行鞄を持って先を歩く男の後に続く。
「杉浦様のキー下さい」
男はフロントでキーを受け取ると、フロント横のエレベーターで三階に上がった。
「こちらがお客様のお部屋になります」
キーを使いドアを開け、俺を部屋へ通してくれた。
「お荷物こちらへ置きますね」
一人掛け用のソファに鞄を置くと、カードキーを差し出した。
「何かありましたらフロントへお申し付け下さい」
男は強面の顔に似合わない笑顔を残し、部屋から出て行った。
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