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第4話

――沖縄へ行こう。 それしか考えていなかった俺に今後の予定はない。 スマホのアプリゲームでもやって時間をつぶそうかとも思ったが、止めた。 なけなしの貯金をはたいて来たのだ。 外に出なくては意味がない。 ジーパンからジャージへ履き替えると、海を目指し部屋を出た。 フロントで一番近くのビーチへの行き方を聞き、歩く事数分。難なく辿り着いた。 テレビで見た通り、砂浜は白く、透き通る海はエメラルドブルーに輝いていたが、予想以上の人の多さに安らぎよりも息苦しさを覚える。 どうしたものかと辺りを見渡せば、海の家が目に入った。 肌を刺すような日差しから逃れる為に海の家へ向かうが、やはりと言うべきか店内は満員だった。 仕方なく商品だけを買い、店の外に出ると丁度空いた木の椅子に腰を掛け、買ったばかりのかき氷を一口食べる。 ただの氷にシロップを掛けただけのものが何故こんなにおいしく感じるのだろうか? 暑さか、海だからだろうか、そんな事をぼんやり考えながら食べていると、声が掛けられた。 「日焼け止めは塗りましたか?」 見れば、がんじゅーのスタッフ。大城だった。 「塗っていないなら今からでも塗った方がいいですよ」 常に携帯しているのか、日焼け止めを差し出された。 「あの、これ食べたら帰るんで、大丈夫です」 「だとしても、塗った方がいいですよ。沖縄の日差しは強いから、軽い火傷状態になりますし」 そこまで言うならと、日焼け止めを受け取り服から出ている部分に塗っていく。 「背中、塗りましょうか?」 唐突にそう言われ、どうしたものかと逡巡する。 「パラソルの下でも日焼けするほどですから、服の下も塗っておいた方がいいですよ」 「でも、悪いんで……」 「夜、水に浸かるのもしんどくなりますよ?」 それほどなのか……。 人の親切に素直に甘える事にし、Tシャツを脱ぎ捨てお願いする。 「泳がないんですか?」 「泳げないんです」 気分的にだけど。 「浮き輪のレンタルもありますよ」 「大の男が浮き輪付で泳いでいたら笑われますよ」 「なら、スキューバダイビングはどうです? あれなら泳げなくても出来ますよ?」 「予算があまりないんです」 「俺の知り合いに頼めば、安く出来ますよ」 「あー……でも、本当に予算ないんで、いいです」 「それじゃあ、釣りは? 釣り道具なら俺のを貸せるから無料ですよ?」 何だろう。 妙にかまわれている気が……。 もしかして、ナンパされているのか? 懐疑的な目で大城を見るが、セクシャラスなものを感じない。 ただの世話好きだろうか? 「あの、こんな所で油売ってていいんですか? 怒られません?」 遠回しに権勢するが、大城は言葉を素直に受け取ったらしく「大丈夫です」と笑った。 「分刻みで動いている東京と違って、ここは何事もゆっくりだから、少しくらい抜けても大丈夫です」 そういうものなのか? 「それに今、ちゃんと接客していますし」 これは接客なのか? 「それで、どうします? 釣りやります?」 「俺、虫ダメなんです」 「ん?」 「餌って虫ですよね?」 虫に触れるなど想像するだけで嫌だと、表情で訴えると大城は笑った。 「虫以外の餌もありますが、初心者一人では色々大変でしょう。明日休みなんで、一緒にやりましょうか?」 「いや、そんな悪いんで……」 やんわりと断ろうとするが。 「明日、部屋まで迎えに行きますね」 断らせてはくれなかった。

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