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第2話
とりあえず原稿貰ってきて!!
それが神田の頼み。もちろん椿屋には丸聞こえなのだけど、「はーい分かりました」と返事をして立ち上がる。
「あ、お土産とかいるからね……百貨店でさチョコレートの催事やってるから、そこのチョコ買って来てって電話で言われた」
「わざわざ電話ですか?」
「原稿の調子聞いたらチョコ買ってきたら教えるって言うから」
「子供か……」
椿屋はため息をつく。
面倒くさい作家は結構いる。その中の1人なんだなって思う。
「チョコの種類は?」
「……あ、聞いてなかった」
「そこ!重要でしょーが!ブランドがいいとかチロルがいいとか!それでヘソ曲げられたらどーすんですか?」
「あ~考えてなかったな……流石椿屋、その勘の鋭さで当ててよ」
その勘の鋭さは本人の心の声が必要なんですよ!って言いたい、すごーく、言いたい!でも言えない。
行く前に電話してみるか?
「神田さん番号教えて下さい」
「俺の知ってるだろ?」
「いや、伊佐坂先生の」
「ああ!!」
ウッカリ!とか言いながら番号を教える神田。
「多分、出ないけどね」
「えっ?」
「電話する時間決まってんの……」
「なんじゃそりゃ!!」
「気が散るとか言うからさ」
「何時にかけたらいいんですか?」
「12時と18時」
「なんすか、その微妙な時間は……なんか飯とか買って来いって時間……って、それでチョコ」
「そうなんだ」
ニコッと笑う神田。
「本当、子供……」
時間は13時で、次の電話は18時。
チョコの種類聞けない……本当、1番肝心な所を聞かないというか、アホというか……。
「とりあえず行ってきます」
「頑張れよイケメン」
神田は大袈裟に手を振り見送った。
チッ、めんどくせえええええ!!!!
力いっぱいシャウトしたいくらいだった。
エレベーターのボタンを押すと丁度、ドアが開いた。
『ひゃ!!!王子様』
ドアが開いた瞬間に中に居た女性の心の声がダダ漏れだった。
「ハルカちゃん」
椿屋は中に居た女性に微笑みかける。
「つつつ、椿屋さん!!ご、ごきげんいかがですかあ」
凄くテンパッているというか緊張している女性は春佳宙。ハルカカナタなんて良く親も付けたなあってハルカが入社した時に椿屋は思った。
しかも宙と書いてカナタ。キラキラネームが流行り出した子供が社会人になってるのかあ……と時代の流れを感じる程椿屋は年ではない。ハルカと同じ平成生まれ。
「どこか行かれるんですか?」
『うひゃ!どげんしよ!王子様と同じ空間とか……ばり死ぬ!!今、死ぬ』
ハルカの質問と心の声が交互に聞こえて椿屋は笑いを堪えるのに必死だ。
ハルカは椿屋を王子様と心の声で呼んでいるのだ。どうも、彼女のストライクなルックスをしているらしい。
でも、誘うとかそういうアピールはしてこない。
会うとこんな感じで心の妄想というか声に笑いを堪えねばならないのだ。
「伊佐坂先生の原稿貰いに」
「えっ?担当が……」
「うん、今日から担当……ハルカちゃん、神田さんから俺が担当していた作家さんを任せられたでしょ?」
「はい……あ、それで」
『ああ、声もばり良かよねえ……この声で攻めの言葉とか言うてほしか』
攻め?
心の声にピクリと反応。攻めって何?
「チョコ買ってきてとか言われてさ……ほら、チョコ催事やってるでしょ?」
「はい!私、昨日行きましたよ!アニマルのチョコが可愛くて買っちゃいました」
「そういうのがあるんだ?へえ?」
ああ……チョコ……何かえばいいんだよおお!!
手当り次第は買いたくない。
『ダスカのチョコも買えば良かったなあ……ダンちゃんダスカ好き』
心の声と被るように
「あ、チョコ、ダスカ買えばいいと思いますよ?」
とハルカ。
「えっ?ダスカ?」
「ベルギーのチョコです」
「なんで?」
「あ、あ、えっと、雑誌!!雑誌で伊佐坂先生がダスカのチョコ好きだって」
「まじ?ありがとうハルカちゃん」
椿屋は思わずハルカの手を握ってお礼を言った。
『きゃー!!!』
心の悲鳴。
しまった!と椿屋は思った。
『ててて、手!!!洗わない!!もう洗えない』
ハルカのダダ漏れの声に「インフルとノロ流行ってるからうがいと手洗いしてね」と注意。
1階に着き、ハルカに手を振って椿屋は降りた。
エレベーターに残されたハルカは「ああ!!どげんしゅう!大事件ばい!!早速、博多のお母さんに報告せんば!!」と顔を赤らめていた。
◆◆◆◆
ベルギーのチョコは結構値が張った。まあ、領収書切ったし?どうにかなるだろ。
チョコを手に馬鹿デカイマンションへと進む椿屋。
売れっ子作家だけあって立派なマンションに住んでいる。流石……
しかも、デカイマンション特有の中に入る前に通過しなければいけないセキュリティのドアがある。
部屋番号は神田にLINEで教えて貰っていた。
番号を押してみるが出る気配がない。
まさか留守?まさか逃げた?
締め切り前の作家には良くある事。
でも、この先生は締め切り守る人だって聞いたけどな?
椿屋はもう1度番号を押す。
「はーい!何か御用ですか?」
と真後ろから声が。
はい?と振り向くと。
中学生かな?
子供が居た。
色白で小柄な凄く可愛い顔をした女の子?いや、男の子かな?と首を傾げて見つめている椿屋に、
「へえ、ちゃんと今度はイケメンじゃーん!しかも王子様」
とにっこり微笑む。
「はい?」
君、誰?と聞こうとすると、「椿屋さんどーも!伊佐坂でーす」とヒラヒラと手を振ったのだった。
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