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第3話

伊佐坂壇十郎……? マジで? 椿屋は彼を上から下まで見つめる。 名前は渋い……かなり渋い。ジイサンか?って言いたいくらいに。 その名前に似つかわしくない少年が自分が伊佐坂だと名乗っている。 見た目、10代。ショタ。 「おい、いつまで見てんだ!金取るぞ」 ショタが詰め寄る。 低い声で言っているつもりなのだろうけれど見た目ショタなので怖くないし、小柄な彼を椿屋は見下ろしている。 目の前のショタがフッと消えたかと思うと身体がフワリと浮いた。 その瞬間、投げ飛ばされると思った椿屋は自分で勢いをつけて一回転する。 よって伊佐坂と名乗るショタが離れた。 「へえ、何かやってんだね。運動神経いいじゃん」 ニコッと微笑む。その微笑みも美少年ならではの天使の微笑み。 「まあね、ずっと格闘技やらされてた」 「イケメンで身長高くて運動神経もある……なんか、腹立つ」 美少年はそう吐き捨てるとポケットから鍵を出してマンションの入口を開ける。 ああ、本当にここに住んでいるのかって椿屋は思う。 「着いて来ないの?ドア閉まるよ?」 既に中にいる美少年に呼ばれる。 ああ、そうやん!と椿屋は急いで中へ。 「閉め出しやってやろうかと思ったけど、お土産持ってるし特別」 椿屋の持っている紙袋を指さす。 いや、お前が買ってこい言うたよな?と椿屋は心で突っ込む。 美少年伊佐坂が前を歩き、エレベーターへ。 着いたのは最上階。 バカと天才は高い所が好き。……昔、近所のジイサンが言ってたな。 部屋の中に入る。 入っておおっ!!となる。 色んなフィギュアがところ狭しと並べるられいるし、大きな水槽もある。 グッピーを飼っているその水槽の中にも手作りなのかフィギュアを取り込んだオブジェが。 大きな水槽と小さい水槽。 大きな水槽が某ロボットアニメの世界観で小さい水槽は某SF映画の世界観。 「すごっ!!」 椿屋は思わず水槽に食い付き、中に飾ってある全てのキャラの名前とロボットの名前を言う。 「二つ目合格」 真後ろで美少年伊佐坂の声。 何その二つ目合格って?と思った。 「全ての名前、なかなか言えないんだよね。昨日来た奴なんて全くダメだった」 昨日? ああ、泣いて辞めた新人。 「これが二つ目なら一つ目は?」 「アンタのルックス」 ああ、そうすか!と椿屋は思う。 「お土産」 手を出す美少年伊佐坂。 「ああ、すみません」 その手の上に袋から出したチョコを置く。 「三つ目合格」 その言葉にハルカちゃんありがとう!!と椿屋は心で感謝。 「飲み物出してよ」 は?飲み物? それ、言われてないぞ……くそう!飲み物も用意するべきだったか…… やっぱ、心の声……。 そう思って椿屋はある事に気付いた。 目の前の美少年の心の声が出会いから1度も聞こえて来ないのだ。 人が心の声を発しないなんて1度もなく。 ボーとしていても何かしら呟いているからだ。 あれ? 俺……聞こえなくなった? 急に力が消えたのか? でも、まあ、あってもなくてもどっちでもいいし…… そう考えていると、「冷蔵庫から出してきてよ」そう言われた。 椿屋は冷蔵庫を開ける。 ……なんじゃこりゃ、酒ばっか!!! 思わず振り返って美少年伊佐坂を見る。 こいつ……未成年? 「言っとくけど、年はお前より上だ!」 「は?」 何言ってんだ?こいつ?的な顔をしてしまったかも知れない。 「俺……26ですよ?」 「だから?」 えっ?俺より上?マジで??? こんなにもショタっ子で肌がピチピチで……美少年なのに……成人済? 「早く飲み物」 「いや、ここ、アルコールしかないですけど?」 「飲み物じゃん」 「いや、……酔うでしょーよ!この飲み物は!」 「それくらいの度数じゃ酔わない」 「仕事に差し支え」 「ねえよ!書き終わってるんだから」 マジすか!! 成人済でなおかつ原稿終わっているならいいか……と冷酒を取り出す。 「日本酒かよ」 美少年伊佐坂の言葉。 何でもいいんじゃないのかよ!と言いたい。 ああ、やっぱ、心の声聞こえないと不便だな。 「チョコには日本酒合うんですよ!ワインとかウィスキーでも合いますけど」 「へえ、良く知ってんじゃん」 にっこり微笑むからこれも合格なのか?と椿屋は冷酒をそそぐグラスと…… 食器棚を開けると升があった。 これだけで、成人済なんだなって思う。 既にテーブルに着きチョコを出して食べている彼の元へ行き、升とその中にグラスを入れて酒を入れる。 「ありがとう!平成生まれでもちゃんと冷酒の飲み方知ってんだ」 「祖父が大酒飲みでしたから」 つーか、アンタ、バリバリ平成生まれの顔してますがな!!と突っ込みを入れたいのをぐっ!!と我慢する。 「それで原稿は?」 「椿屋、腹が減った」 「はい?」 「飯!!」 飯?何言ってんだよ、もう!! 「ピザとります?」 「何でピザなんだよ?」 「見た目から」 椿屋は思った事を口にした。 心の声が聞こえないのだから、もうあてずっぽうというか、見た目から推理するしかないだろ?なんて心で呟く。 自分の声が他人に聞こえていたなら笑われているかもな。 「ガキ扱いかよ……カツ丼!作れ!」 命令形なのですか?そうですか…… お願いしますとはきっと言われない。 「具材買ってくるんで金ください」 「現金持ってない」 そう言うと美少年伊佐坂はブラックカードを出す。 くそう!!ブラックカードかよ!嫌味か!! 「後で返して下さいね」 「みみっちいな?領収書切って来いよ」 ああ!!!なんか、腹立つ!! 自分より年下に見えるのに……と、上ならこんな気持ちにならんのか?俺、最低!!とか自分反省。 「あと煙草も」 煙草……?ああ、成人済だったな。 「銘柄は?」 「ハイライト」 オッサンか!!! そう突っ込みたかった。 そして、椿屋は自腹で材料と煙草を買う羽目になる。

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