9 / 106
第9話
ドッと疲れが出た。
編集社に戻り、原稿を神田に渡す。
「疲れたんで帰ります」
「えっ?何?椿屋……まさか、何かあったんじゃあ!!」
『うわあ!!まじかああ!椿屋辞めるとか言い出さないよな?』
椿屋はどちらかと言えば仕事人間なので、良く自主的に残業をしていた。なので、帰ると言い出し神田は焦る。
「違いますよ!伊佐坂先生に買い物頼まれたんで早目に帰ります」
「えっ?買い物?何?」
「赤ウインナー」
「は?」
神田固まる。その姿に手を振り椿屋は退勤する。
最寄り駅近くのスーパーへと寄り道。
明日の弁当のオカズの買い出し。
目をキラキラさせた伊佐坂を思い出す。
本当に可愛かった。
小さい子供に甘い大人はきっと、あのキラキラの瞳にやられるのだろう。
現に椿屋もやられた。
もっと、見ていたいと思ってしまったし。
食材探しながら、もっとあのキラキラの瞳を見たい……そう思ってしまった。
◆◆◆◆
宙は1人悶えていた。
入社した時からカッコイイと思っていた椿屋が自分の叔父、壇十郎とソファーで……
キャーキャーやばか!!ばり、やばか!!
ダンちゃんと椿屋さんが……
ああ!!今頃……ひゃあ、鼻血出ちゃいそうううう!!!
ベッドで枕を抱きしめたままゴロゴロと転がっては悶えていたのだ。
あげな、美男同士であんな事、こんな事……
神様ありがとう!!宙は生まれてきて良かったです。
私、今、この瞬間から椿屋さんとダンちゃんの恋を応援しますうう!!!
そう誓った時にスマホが鳴った。
起き上がってスマホ確認。
叔父、壇十郎からの電話。
ひゃあ、まさか……やっている所を聴かせてくれるとか?どげんしゅう!!ばり嬉しかあ!
そんな思いのまま、急いで電話に出た。
「宙?お前、飯食ったのか?」
あれ?普通?
「まだだよ?……ダンちゃんは?」
「俺はキャラ弁がある。宙がまだならピザか何か取るか?」
「えっ?キャラ弁?わ、私はいいよお!椿屋さんとキャラ弁食べるの?」
宙はキャラ弁って手作りかな?と考えた。壇十郎は料理出来ないと知っている。誰が作ったのかな?
「椿屋は帰った」
「か、帰ったの?泊まるのかと」
ああん、泊まればいいのに!!
「なんか、息荒いぞお前……原稿持って帰ったよ」
ハアハアした鼻息が電話越しに聴こえたようで、宙は恥ずかしくなる。
「そっか、原稿か」
「椿屋いいなアイツ」
「へ?」
その言葉で宙は本気で鼻血が吹き出すかと思った。良かったんだ!!椿屋さん!!やっぱ、攻めが似合うって思ったのは間違っていなかったんだ!!
バンザイを何故かしたくなる宙。
もうう!!ダンちゃんごちそうさまでーす。
「明日から楽しみが増えた」
「まじでえええ!!ダンちゃん、私、ダンちゃんと椿屋さんを応援するね美男同士でお似合いだもん」
興奮気味に言う宙に思わず笑う伊佐坂。
「いいのか?王子様なんだろ?」
「いいの!!だって、ダンちゃんはお姫様だもん!王子様とお姫様でお似合いだよ」
神様、本当にありがとう。
とてもお似合いの2人をこの世に送り出してくれて。
「ありがとう宙」
「ダンちゃん頑張ってね!」
「夕飯、大丈夫か?」
「うん、もうお腹いっぱいだよ」
宙は2人の関係で胸焼けするくらいにお腹いっぱいだった。
「じゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみダンちゃん」
電話を切った宙は、また、ベッドに寝転がると、キャーキャー言いながら悶えるのであった。
◆◆◆◆
キャラ弁食べたのかな?
椿屋は弁当の下ごしらえをしながら考える。
そう言えばSNSやってるとか言ってたな?
下ごしらえの手を止めて、キッチンの近くにあるスマホを手にすると伊佐坂の名前でネット検索をする。
呟きサイトが引っ掛かった。
そこを開けるとフォロワーが伊佐坂のアカウントが。
フォロワー数が万を越えていて、ほぼ、女性ばかりだった。
恋愛小説家だもんな……。
そして、1番新しい呟きをみた。
そこには空の弁当箱の写真と完食の文字。
食べたのか……。
何故か凄く嬉しくなった自分が居る。
その前の呟きには椿屋が作ったキャラ弁の写真。
撮ってたもんな……目をキラキラさせて。
彼が写真を撮っていたのを思い出す。
その前には……
げっ!!と思った。
料理を作っている椿屋の後ろ姿の写真が載せられていた。
今日から担当になったイケメン王子。
そう書かれていた。
あいつ!!いつの間に……!!!
顔は載せられていないからまだいいけれど。
王子様ってオイ!と突っ込みたい。
フォロワーの反応を見てみると、
王子様ってたまに呟いていたあの彼ですか?
料理出来る男の子ってやっぱいいですねえ。
王子様担当になったんだ!良かったね先生……
賑やかな反応だった。
しかも、王子様……俺の事を呟いていたのか!!と彼の呟きをスライドさせていく。
食べた物の写真ばかりでなんか笑えた。
でも、ほぼ、弁当やインスタント、お菓子、チョコ、酒、酒、酒……
はあ?コイツ、なんて不摂生なんだ!あんな立派なキッチンがあるのに……
良く生きてこられたな……と心配になる。
そして、本当外食しないんだなって思った。
どこどこに行ったとか全く書いてない。
言っても書かないだけかな?
ファンが押し掛けて最悪潰れる店もあるから。
良いファンばかりではない。行儀がよろしくないファンが押し掛けて堪らず閉めてしまうお店をたまに聞く。
あと、ストーカーばりに行動をチエックしてどこにいるのかを探し当てて接触してくる輩もいる。
リアルタイムでは流さない方がいいと聞くもんな。
あと、部屋の間取りもあまり写真に載せていない。
窓なんて写してしまうとその窓に映り込む風景から家も突き止められてしまう恐ろしい現代。
顔出ししていないって言ってた。
確かに椿屋も顔は知らなかった。
徹底してるんだな……と思った。
ずっと呟きをスライドさせていく。
王子様の文字が結構出てくる……
俺の事か?
まあ、王子様が担当になったって書いてたから俺か……。
不思議な気持ちだった。
作品を読んだ事があっても顔を知らない人気作家が自分が知らない所で自分の事を呟かれている。
王子様の文字が出てきたのは丁度ハルカが入社した頃からだった。
本当に情報は彼女からだったみたいだ。
その前はほぼ、食べ物と酒とチョコと作品の事をちょっと書いているだけだった。
頻繁には呟いてはいないが、呟くとRTが凄い。
通知うるさいだろうな……とつい、心配になってしまう。
キャラ弁の画像まで戻すと、これもRTが凄かった。
可愛い!!
という反響が凄く、作った椿屋はちょっと照れてしまった。
ともだちにシェアしよう!