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第7話
◆◆◆
どれくらい寝たのか分からない……。
「椿屋ああ!!腹減ったあ!!」
身体を容赦なく揺すぶられ目を開ける椿屋。
「トルコライス作ってくれるって言っただろ、起きろ!!」
伊佐坂はそう言うと椿屋の上にドスンと乗った。
「ぐふっ」
乗られた衝撃で変な声が出た。
「お腹空いたあ!」
椿屋の上で揺れる伊佐坂。
「お、大人しくしなさい」
まるで子供を叱るように言う椿屋。
「子供か!」
「お腹空いたと大声あげるような人間は子供です!起きれないから降りてください!!」
胸の上に乗る伊佐坂を払い除ける。
そして、伊佐坂が凄い格好をしているのに気付いた。
「ちょ、何着てるんですか!」
椿屋の横に転がる伊佐坂はフワフワな女の子用の服を着ている。
「あ、これ?アリス的な衣装。宙が買ってきた」
確かにアリスと言われればそうかも知れない衣装。
白いエプロン?エプロンでいいのか?エプロンにドレス……これは、どういう意図があるんだろ?
「で、中はエッチな下着」
伊佐坂はスカートをペロンと捲りあげる。
レースの紐パンツ。小さい布が大事な部分を隠しているだけの下着。
伊佐坂はニーハイのストッキングを履いているのでガーターベルトまでしていて、ぶっちゃけ、エロい。
ロリータファッションの中身がエロいとか反則だ……。
「何そんないやらしい顔して見てんだよ?」
伊佐坂はニヤニヤしながら椿屋をからかう。
「ニヤニヤなんてしてません!」
椿屋は起き上がり、服を探す。……そういえば、服どうしたっけ?
周りにはない。そして、風呂場で脱いだ事を思い出す。
服を取りに全裸で風呂場へ。
脱いだ服はそのままそこに放置されていた。
そうだよね、あの先生が気を利かせて持ってくるとかしないよね。
「俺の服貸してやったのに」
伊佐坂がヒラヒラしたスカートのままやって来た。
「あなたのはサイズが合いません!」
「着物あるぜ?」
「は?着物?」
「椿屋は着物似合いそうだな」
「女物じゃないでしょーね?」
「ばーか、振袖は俺しか似合わない。お前にはちゃんと男物の着物貸してやるよ、だって、それ、湿ってるぜ?」
確かに掴んでいる服は湿っている。風呂場で脱いだし……それにめっちゃ、イカ臭い。
洗濯機に放り込んだ。
着物はシックな柄で、ホッとした。なんせ、色んなコスプレ持っている彼のモノと言われたら、ちょっと、身構えてしまう。
裸で買い物は行けないから、借りる事にした。
「あ、下着」
「あるよ」
伊佐坂が持ってきた下着は全部、フリルとか、紐パンとか、普通の下着ではなかった。
「穿けるか!」
「じゃあ、フンドシ」
伊佐坂はフンドシを広げる。
「椿屋ってハッピとかフンドシ似合いそう……福岡の祭りなんだっけ?朝早くからやるやつ」
「山笠」
「そうそう、それ!テレビで見た事あるけど、いいよな、フンドシ」
伊佐坂は思い出したのかニヤニヤしている。
フンドシ……。
椿屋は悩んだ挙句、ノーパンを選んだ。
買い物するだけだし……ちょっと、不安だけどな。
「着物の中はノーパンとか椿屋エロいな!」
伊佐坂は後ろから尻にタッチ。
「ちょっ、」
驚いて声をあげる。本当にエロ過ぎるんだよ!この先生は……
伊佐坂を睨みつける。
ニコッと微笑む伊佐坂はエプロンドレスのせいで、凄く可愛い。
アリスでもいいんじゃないの?なんて、思ってしまうほど。
「何、見惚れてんだよ?何?このままやりたい?」
伊佐坂はまた、スカートをフワリと捲りあげる。
「バカをいいなさい!!ほら、もう、スカート戻して」
冷静を装いスカートを下げさせる。
ちょっと、生唾飲み込みそうだったのを隠す為だ。
「着物の椿屋に性的欲情したんだよ!飯食ったらしよ?」
躊躇いも何もなくさらりと誘ってくる伊佐坂。
「もう!そんな事ばっかり言って!散々やっただろ?」
「何度言わせるんだ?俺は絶倫だっちゅーの!欲しい時は欲しいし、しない時はしない!それは俺が決めんの」
「いやいや、勝手に決めて貰っても困るから、俺の意思も尊重して下さいよ」
「どうせ、俺の事抱くくせにさ」
ぐっ!!返す言葉を一瞬失った椿屋。
「買い物して来ます」
こういう時は逃げるが勝ち。
椿屋はマンションの入口のドアを開けた、その瞬間、
『セックスしてえ!セックスしてえ!セックスしてえ!』
男性の声が勢い良く聞こえてきた。
思わず声の主を見てしまう。
自分より年齢が上そうな男性。
ラフな格好で、ここに住んでいる人かな?と思った。
セックスしてえ!は心の声のようで近付いてくるにつれて、もっと大きくなる。
余程、溜まっているのかな?欲求不満って世の中に沢山いるからな……。
椿屋が出るとと同時にセックスしたいと心で呟く男性は中へ。
やはり、住人のようだ……。
でも、何か引っかかる……どうして引っかかるのか自分では分からない。
気になるのだが、椿屋はスーパーへ向かう。
◆◆◆◆
ピンポーン……
部屋のチャイムが鳴り、伊佐坂は「椿屋?アイツ、鍵持って行かなかったのか?」と玄関へ。
確認もせずに開けてしまった。
その瞬間、バチっと腹辺りに衝撃が走り、目の前が真っ暗になる。
倒れ込む伊佐坂を抱きとめたのは椿屋とすれ違いでマンションへ入ってきた男性。
「ちくしょ、可愛い格好しやがって!レイプして下さいって言ってるみたいだよ、先生……」
男性は気を失った伊佐坂を抱き上げると部屋へと上がり込む。
伊佐坂を抱き上げたまま、寝室へ。
ベッドへ伊佐坂を寝かせると髪を撫で、額、頬、とキスをして、そのまま唇にもキスをする。
「ああ、可愛い可愛い可愛い!!!」
息を荒くしながら男性は伊佐坂の身体をまさぐる。
伊佐坂の格好は彼の性欲を加速させていく。
スカートをめくり、フリルの紐パンを見て、
「本当に可愛い……俺と今からセックスする為に可愛い下着穿いてるんだね」
とそこへ顔を埋めた。
◆◆◆◆
スーパーへ行く途中、椿屋はさっき、入れ違いで入って行った男性を何故気になるのか思い出した。
確か……去年、辞めた人だ……、伊佐坂先生の担当で辞めた人。
あれ?辞めたのに何で?
他の出版社に入ったのかな?
でも、そうだったらどこからか話は回ってくるはずだし……それに……
セックスしたい!とずっと呟いていたのも気になる。
……気になる時は戻った方がいい……多分。
椿屋は足を止め、方向を変えるとマンションへと戻る。
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