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第9話
「違いますよ!勝手に着てるんです!」
椿屋は無駄だと思うが一応、言い訳をしてみる。
「……椿屋、俺はな、可愛い後輩の趣味を否定しようとは思わないけれど、伊佐坂先生はウチの大事な作家さんだ無理させたらダメだぞ……それと、一応、恋愛禁止にしてるけど、俺は何も見ていないし聞いていない。だから、お前と伊佐坂先生の事は知らない事にしておく」
『お前がガッチリと伊佐坂先生を掴まえていてくれればウチは安定だ』
この人は本当に裏表ない人だなって椿屋は感心してしまう。
男同士気持ち悪いとか差別的な事も言わないし。
「椿屋、お前、良い先輩持ったな。これで公認の仲になった」
伊佐坂にバシバシと背中を叩かれた。
「ちょっと待ってよう……何ですかソレは」
公認の仲とか冗談じゃない。
椿屋と伊佐坂が付き合っていると神田には思われている。
「椿屋って体力あり過ぎるし、野獣ですよ……もう、むちゃくちゃセックスしまくりました。服がザーメンでベタベタになるくらいに」
ニヤニヤしながら伊佐坂が言う。
「ちょっとおおお!!!」
やめろ!と伊佐坂の口を塞ぐがもう手遅れ。
「ああ、だから椿屋は着物着てるんだな」
神田も何だかニヤニヤして椿屋を見ている。
「ちょっとお……勘弁して」
もう、どうやっても弁解なんて出来ないし、それに伊佐坂は嘘は言っていない。
むちゃくちゃセックスしまくったのは本当だから。
「椿屋は野獣か……へえ」
『いいなあ、体力あって、俺なんて奥さんと週1しか出来なくてさ、しかも、直ぐにいっちゃうし』
神田の心の声に……先輩って早漏なんだ……と同情してしまった。
「うーん……」
椿屋と神田の会話途中、男が目を覚ました。
男はすぐ様自分の置かれた状況を把握したみたいでオロオロとした表情を見せる。
「浜田……お前、本当にバカだったんだな警察に1度お世話になっただろ?反省も何もしていないなんて!」
神田は男に詰め寄る。いつもの穏やかそうな彼とは違い、流石に迫力があった。
浜田と呼ばれた男は目を合わせずに俯く。
「伊佐坂先生が好きで……」
俯いたままに答える浜田。
「好きならこんな事していいのか?先生を怖がらせていいのか?本当に好きならこういう事はしないだろ!!」
神田は腕を組み、浜田にキツイ口調で言う。
「すみません、すみません」
浜田はポロポロと涙を流す。まるで反省しています!感情が爆発して止められなかったんです!!といわんばかりに。
でも、心の声は『神田さんはチョロいから騙される!前も俺を庇ってくれた……先生をレイプして脅そうと思ってたのに邪魔が入った……次は上手くやる!』
それだった。
椿屋は浜田の襟首を掴み立たせると壁側に連れて行く。
急な行動にキョトンとする浜田を壁を背に立たせると、拳を握り、力いっぱいストレートをかます。
ドコーン!!!と大きい音が部屋に響き、壁に拳と同じ大きさの穴が出来た。
浜田の顔面スレスレに右ストレートが放たれたものだから、彼は青ざめて震えている。
怯える彼を睨みつけると、「俺にはアンタの涙は通じないし、下手な芝居も通じない!ストーカー続けるというなら覚悟しとけよ、俺が黙ってはいない」
迫力がある声と殺すぞお前的な雰囲気を感じた浜田は真っ青な顔で何度も頷く。
人は本気で驚くと声が出ないらしい。そして、心の声も出ないらしい。
「すげえ音したな」
真後ろで伊佐坂の声。
椿屋は壁から拳を離し、浜田も離した。
椿屋という支えが無くなったのでズルズルとその場に座り込む。
その浜田の前に伊佐坂は立つと、「俺に今後何かしたら椿屋が黙ってないよ……俺達、付き合ってるから」笑顔で言った。
んん?何言った?と椿屋は固まる。
「浜田、取り敢えず、警察な」
神田は浜田の腕を掴み立たせる。そして、椿屋の方を向き、「お前は病院な」と言った。
何で病院?と思った瞬間、右腕に激痛が走った。
怒りで痛みを忘れていたのをたった今、思い出したのだ。
痛いが浜田の前では平気な振りをする。
「あと、壁の修理出来る業者呼んでよ、穴開いてる」
伊佐坂は椿屋が開けた穴を指さす。
「了解であります!!」
キリッとした顔で返事をする神田。
『いや、まじもう!椿屋居てくれて良かったし、椿屋、本気で伊佐坂先生の事好きなんだな、あんなにマジで怒ったの初めて見た』
神田の心の声に椿屋は「はああ?」と思わず反応してしまい、神田をキョトンとさせる。
好きなわけがない!!こんな!!こんな!!
椿屋は伊佐坂を見る。
フワフワなエプロンドレス姿の伊佐坂は天使みたいに可愛い。
見た目は本当に可愛い……可愛い……いや、俺はショタコンでもロリコンでもない!!
それにエロい!コイツはことある事にセックスを迫ってくる。
俺はコイツに恋愛感情なんてない!
ただ、キラキラとした瞳で喜ぶ姿を見たいと思っただけなんだ。
心でそうシャウトした。
◆◆◆
手は打ち身だけで済んだ椿屋。
そして、浜田は大人しく警察に連れて行かれた。連れて行かれる間も椿屋に怯えていた。
そんなに迫力あったか?と椿屋は後で疑問を持った。自分では自分の迫力とか分からないものだから。
「椿屋、後で警察に事情聴取で呼ばれるぞ」
神田に言われた。
部屋の中には入っていないと言う事にした。伊佐坂が警察には出向きたくないと駄々をこねたのだ。
犯人を事前に取り押さえたのが椿屋と神田。そんな感じ。
「壁の修理代、椿屋の給料から引くから」
「は?」
神田の言葉に思わずフリーズする椿屋。
「穴開けたのお前じゃん?」
「そりゃ、そうですけど……」
そう、確かに穴は開けた……でも、それは……。
「まあ、領収書切って会社提出してみるよ」
「そうして下さいよ!!俺、病院代も払って金ないです!」
そんな話をしていたら、急に夕飯にトルコライスを作る約束をしていたのを思い出した。
「先輩!お金貸して下さい」
「えっ?なんで?」
「伊佐坂先生の夕飯の材料費です」
「えっ?お前、その手で作れるの?」
神田は包帯が巻かれた手を指さす。
「あ、」
『こりゃ、マスもかけねーな!』
卑猥な心の声が聞こえた。
余計なお世話!と椿屋は思った。
「神田先輩、買い物付き合って下さい!あと、俺が支持するんで料理作って下さい」
「いいよ」
『椿屋……お前、そんなに伊佐坂先生が好きなんだな?怪我してまでも……泣けるよ!』
「違うから!」
心の声にまた反応してしまう椿屋。
「は?どっち?」
困惑する神田に「いや、手伝って下さい」とお願いをした。
俺は……恋愛感情なんて持ってない!!断じて持ってないからな!!
心で何度もシャウトする椿屋だった。
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