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8話

◆◆◆◆ フレンチトーストが余程美味しかったのか伊佐坂はご機嫌で「なあなあ、また、作れよフレンチトースト」と椿屋に催促をする。 「いいですよ」 「苺、苺もな!」 「ハート形気に入ったんですか?」 「うん、あれ可愛いな!ウサギのリンゴも可愛いけど……椿屋ってさ天才だな」 ニコッと天使の笑顔をいただきました。 ならば張り切るしかないじゃないか! 「苺でサンタクロースにもできますよ?季節外れだけど」 苺でサンタクロースという言葉にキラキラと瞳を輝かせる伊佐坂。 「何それ、何それ?苺でそんなのできんの?」 「できます!」 「マジか!どんなのか想像出来ないけど、明日!!明日作って!」 「えっ?明日もフレンチトースト食べるんですか?」 「食べる!!」 人にもし、尻尾があったら伊佐坂の尻尾はブンブンと大きく振っているに違いない。 散歩前のワンコ……。いや、遠足前の幼稚園児? どれも伊佐坂に合う。 「分かりました、作ります」 きっと、お母さんはこんな風に子供に催促されるから甘やかすんだな。椿屋にちょっと母性本能が生まれた瞬間だった。 「本当か?やったあ!!!」 両手を上げて喜び伊佐坂。 あー、なんだよ、もう!!俺の萌ツボをコイツは知り尽くしている。 伊佐坂は上機嫌で「じゃあ、仕事するから家事よろしくう!」とパソコンの前に。 仕事……?今度こそちゃんと書くのかな?またスイーツ見るんじゃあ? でも、スイーツをわざわざ検索して見る姿も可愛い……。 ……ダメだ、俺……あの人を甘やかしそう。 パソコンの前に座る伊佐坂を見てそう思った。 ◆◆◆◆ 昼前、神田から電話がきた。 「椿屋、暫く休みに扱いにしといた」 「は?何で勝手な事を」 「お前、手を怪我してんじゃん!」 「そりゃしてますけど、仕事に影響はないですよ?別に重いもの運ぶ仕事とかじゃないし」 「いいんだ……お前には伊佐坂先生の世話という仕事があるから」 「……また、伊佐坂先生から何か言われたんですね?」 「怖いからボディガードも含めて暫く借りたいって」 「レンタルか!俺は!」 「怖がってるからさあ……確かに怖いじゃん?襲われかけたんだし、お前帰って来なかったら確実にやられてたわけじゃん?お前恋人だろ?そんな理由でじゃー!忙しいから!」 神田はそれだけ言うと電話を一方的に切った。 早口だったな。 多分、椿屋に反論される前に切ったのだろう。 人間、伝えたい事を言う時はそれで頭がいっぱいだから心の声は聞こえない。 特に神田は言う事と考える事が同じなので副音声みたいな感じで笑える。 今回はそれを伝えるのに精一杯だったみたいだ。分かりやすい人だ。 神田が言っていた怖がっている。 それが本音なのか声が聞こえないからわからないけれど、確かに怖いよな?と思う。 そうだよ……俺が戻らなかったら……。 脳裏で伊佐坂がレイプされている画像が流れ首を振る。 ダメ!!絶対にダメ!!あの人を気持ち良くするのは俺だけで充分……!!! ……じゅう……ぶん? 椿屋はたった今、考えた事に「うわあ!!」と叫びそうになった。 俺、今何考えてた? 気持ち良くするのは俺だけ? はああ?何それ?俺だけって何? 壁に頭をぶつけて正気に戻りたい衝動に駆られる。 「椿屋あ!お腹空いたあ」 伊佐坂が顔を出した。 本人登場でドキッとするが「ああ、すみません」と必死に冷静を装った。 ◆◆◆ キッチンに立つ椿屋をじっーと見つめる伊佐坂。 「な、なんすか?」 そんな視線ぶつけられたらさっき考えていた事がバレそうで怖い。 「ん?作るの見てる」 「いいから向こう座っていなさい!」 側に居られたら余計な事を考えてしまう。 「いいじゃんか!」 面倒くさがりなクセにこういう時は興味津々で困る。本当に子供みたいだ。 「なあ、椿屋って料理は母親に習ったって言ったよな?お前の母ちゃんはコックか何かか?」 「えっ?どうしてですか?」 「だって、スイーツとか色々作れるだろ?お前、しかも美味しいし」 「いや、普通の主婦でしたけど?」 「普通の主婦ってスイーツとか料理上手いもんなのか?」 「さあ?知りませんけど……でも、幼稚園とかお弁当、みんな美味しそうだったし、キャラ弁も今考えたら沢山居ましたし……上手いのかも?」 「へえ……」 返事を返す伊佐坂が何か寂しそうに見えて、どうしたのだろう?と思った。 「家事も教えて貰ったのか?」 「そうですね、掃除も洗濯も……おかげで1人暮らしして役に立ちましたから有難いですね」 「そっか……」 その返事も何だか元気がない。 伊佐坂なら「お前、こき使われてたんだろ?」とかからかいそうなのに……。 「伊佐坂先生もでしょ?」 そう聞いてしまった。会話の流れからそうなるだろ?って。でも……。 「仕事するからできたら呼んで」 とパソコンの前に戻ってしまった。 ……えっ?あれ? 俺……変な事言った? パソコンの前に座る伊佐坂は何時もの彼ではない。 俺、もしかして何か地雷踏んだ? ドキドキしてきた椿屋。 何か……元気を出せるようなものを……。 椿屋は考えて「先生、ちょっと材料足りないので買ってきます」と声をかける。 「えっ?あるもんでいいけど?腹減って死ぬから」 パソコンの前から返事が返ってくる。 「苺……買おうかと」 「苺?なんで?」 「サンタクロース作ろうかな?って」 今、自分が彼を元気にできる事はそれしかなかった。 パソコンの前の伊佐坂はパア~と笑顔になった。 椿屋はホッとした。良かった……元気になってくれた。 「なので買い物してきます」 椿屋は上着を着ると財布をポケットに入れる。 すると、上着の裾がグンッ!と引っ張られた。 「……俺もいく」 上着の裾をギュッと握り上目遣いの伊佐坂。 ぐはっ!!!! 吐血するかと思った……。 「い、いいですけど……その格好じゃ……」 椿屋は伊佐坂をチラリと見る。 彼はシャツ1枚だった。

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