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3話

「どうせなら宙も呼んでやろーぜ?」 伊佐坂のその一言で宙もお呼ばれする事になった。 椿屋ももちろん、宙は呼ぶ気だった。なんせ、同じマンション内で母親が来ているのにお呼ばれされないのは寂しいものだ。 なので、仕事終わりの宙が部屋に来た。 「宙、元気してた?」 部屋に入ってきた宙に手を振る瞳。 「昨日も電話で話したじゃん!元気だよ……椿屋さんこんばんは……と、神田さんここに居たんですね」 『神田さん出掛けてくるって言ったまま戻って来なかったし』 椿屋は宙の心の声に笑いそうになるが我慢。神田さんは鉄砲の弾と言われているのだ。1度出ると戻って来ない。 「しかも、来るとか聞いてないし」 『お母さん、絶対に椿屋さん見に来たんだ!!』 「そりゃ、決めたのは夜だもん……ダンに頼まれた下着送ろうと思ったら、あ、どうせなら届けようって」 『ついでに生王子を見てやろーと思いついたし』 心の声で娘と母親の思いがピタリと同じ……というかまるで会話してるかのようで、椿屋はやはり笑うのを我慢する。 「おう!何時までも立ってないで座れよ」 伊佐坂は手招きする。 「宙も後で綿あめ作って貰えよ」 「えっ?綿あめ?何で?」 キョトンとする宙。 「綿あめの機械があるから椿屋が作れる」 伊佐坂が指さす方向に綿あめの機械が。 「えっ?うそ!凄い椿屋さん」 『わあ!もう、凄かねえ』 宙も目がキラキラ。心の声までもウキウキしている。 ここの家族の遺伝か?キラキラ顔は?というくらいに宙も子供みたいにキラキラ顔。 「子供以来だ!綿あめなんて……こっち来てから祭り言ってないし」 『福岡のお祭り行きたかなあ……放生会とか懐かしか』 宙は楽しそうに綿あめ機を眺めている。 心の声の放生会……椿屋も福岡にいた頃は良く行っていた。 「夕食食べたら作るから」 椿屋に言われた宙の目はキラキラ。 「食べたいです」 『椿屋さんカッコよかなあ』 そのキラキラは綿あめというより椿屋に対してなのだが鈍感な椿屋は気付いてはいない。 夕食は神田と瞳も手伝ったので大人数の用意はあっという間だった。 その際も瞳に手際が良いだの、良い嫁だの散々褒められた。 瞳も褒めるのが上手い。そう感じた。 伊佐坂は褒めるというより感動が先にくるから、家事もやり甲斐がある。 瞳は褒めてくれるからやり甲斐がある。 ここは本当、血筋なのかな?と椿屋は思った。 旦那さんも家事をやると会話で聞いたので、きっと、たくさん褒めているのだろう。口癖のように「ありがとう」と「すごいね」を自然に言うのだ。 やる気を出させるのが上手いなと感心した。

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