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第5話

 宿題をして一緒に弁当食ったら三芳のコレクションを堪能する。夏休みも折り返しに差し掛かった頃、これが日課になりつつあった。  でも一緒の時間を過ごせば過ごす程気になったのは、なんとなくだがあまり三芳がこの漫画や音楽に興味があるように思えない事だった。せっかく立派なミキサーがあるのに殆ど使い方がわかってないし、金持ちの思考は難しいなと思いながらベランダに出た。高層階だけあっていつ見ても見晴らしは抜群だ。 「なぁ、夏休み終わりに祭りあるじゃん。花火あがるやつ! あの花火ってここから見える?」 「方向が逆だから見えないよ」 「そっか残念。クーラーかかった部屋で見れるかなってちょっと期待した」  へへと笑うと少し呆れたように三芳も笑った。 「花火、見たかったのか?」 「うん。最後に一番大きいのがあがるじゃん。あれに願い事したら叶うんだって!」 「そんなこと言ってる奴いたな」  そう言いながら三芳もベランダに出てきた。 「その花火にさ、三芳が眠れるように願おうよ」 「え?」 「眠れないって辛いだろ?」 「でも、花火って迷信だろ?」 「信じる者は救われるんだぜ! 俺は叶うと思う! だから一緒に行こうよ」  そう三芳の肩を掴んで言えば、クスクスと三芳が笑い始めた。 「俺は真剣に言ってるのに」  すると肩を振るわせながら三芳が悪いって謝ったけど、まだ笑っている。 「ひでーな。三芳の為なのに」  すると三芳はありがとな、って俺の頭をポンと撫でた。 「笠松のそういうとこ、やっぱいいな」  そんな話をしながら部屋に入ると、三芳は冷蔵庫から冷えた麦茶を取り出した。  そして隣に座るとごくごくと数口飲んで暫く黙ると、小さく息を吐く。 「……俺の病気さ、幼少期のトラウマが原因なんだって」 「病院行ったのか?」  すると三芳は頷いて、目を伏せながら少しずつ話し始めた。 「五歳の時に母親が出て行ったんだ。俺の両親が離婚してるのは知ってる?」 「う、うん」 「その日、母親は俺が寝ている間に家を出た。親父も別宅にいて、家には俺とお手伝いさんしかいなかったんだ。当時、古い洋館建ての家に住んでたんだけど、漏電が原因で俺の寝ていた隣の部屋から火が出た。俺は気付いたお手伝いさんに助け出されて怪我とかも無かったけど、その後、両親の離婚が成立した」  三芳は持っていたコップをテーブルに置くと拳を握りしめた。 「俺は親に愛されてないって思ってた。火事になってとても怖かったのに親は近くにいなくて、もっと好かれていたらって思った。そうしたら母さんも俺を置いて行ったりしなかったんじゃないかって。その時から抱えた寂しさが原因なんだって。俺もやっと納得したよ」  悲しそうに目を伏せる三芳を見ていると胸が押し潰されそうになる。そんな俺を見て、三芳は俺を安心させる様に笑顔を見せた。 「そんな顔すんなよ。前向きに治そうって思ってんだ。笠松のお陰なんだからな」 「俺、何もしてない」 「笠松はお節介だけど優しい。こんなに気遣ってくれた人はいなかった。それに笠松の家族は温かい。 それだけで俺は助けられてる」  そして三芳はソファの上で膝を抱えるように座ると、そのまま俺の方を見て目を細めた。 「笠松はさ、好きな子いる?」 「今はいないかな」 「そっか」  そう言いながら遠くを見ている三芳に「好きな子いるの?」と聞いてみた。 「……いるよ」 「え? 誰?」  でも三芳は静かにかぶりを振った。 「教えない」  その切なげに伏せた目がとても綺麗でドキッとした。そして同時にそんな表情にさせる誰かが胸の中にいるだって思うと何故か胸の奥がちくっと痛む気がした。  まるでその誰かもわからない人に嫉妬してるみたいで自分自身にも戸惑い思わず立ち上がる。 「よし! コンビニ行こう! アイス奢ってやる」

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