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作り笑いの君

「……ここどこ?」 コンビニを目指してたのに、なぜか林道みたいなとこに出てしまった。 町から離れた自然の多い場所にある恐ろしく広い学園だから、道に迷っちゃったみたいだ。 ひとっこ一人いない。日が暮れて、すっかり暗くなっていた。 ぽつねんと外灯があるだけだ。 スマホも置いてきちゃったし、どうしたもんかな……。 「君、何してるの?」 「ひゃっ」 突然、後ろから声をかけられて、俺は驚いてぴょんっと飛び跳ねた。 振り向くと、背の高い金髪の外人が立っていた。 「あ、は、ハロー」 英語は苦手なんだけど、俺はとりあえず挨拶をしてみた。 「日本語で大丈夫だよ。ハーフだから」 そいつはクスリと笑った。 あ、確かに日本語で話しかけられたしな。 うわぁ恥ずかしい。俺は真っ赤になってしまう。 「一年生?」 「あ、はい。あの、コンビニに行きたかったんですけど、迷っちゃって」 俺はそいつの顔をちゃんと見た。 サラサラの金髪。鼻が高くて、堀の深い顔立ちでクールな雰囲気だ。 デニムを履いた脚が死ぬほど長い。 モデルみたいにめちゃくちゃイケメンだ。 「コンビニに行きたいの? ついておいで」 「はい。ありがとうございます!」 助かった! 俺はそいつについて歩いた。脚が長いから歩くのも早いね。 「今日、寮に入ったのかな?」 「はい。すごい広いですね。食堂もお洒落なカフェみたいだし。お金持ちって雰囲気で父はびびってました」 俺の言葉を新鮮そうに聞いているこいつも絶対金持ちだ。 なんか上品な香りがするし。 「君みたいな生徒は珍しいね。始めは慣れないだろうけど大丈夫。この学園のルールは二年が教えてくれるよ」 「えっと、先輩は三年なんですか?」 「ああ。制服だと学年ごとにネクタイの色が違うんだ。目上のものへの言葉使いには気を付けた方がいい。厳しいからね」 「分かりました」 意外と体育会系なのかな。俺はビシッと返事をした。 「君は大丈夫そうだね」と、人当たりのいい微笑みを浮かべた先輩だけど、ちょっと引っかかった。 こうゆう笑い方には覚えがある。 俺はじっと先輩の顔を見つめた。先輩は不思議そうに聞いてきた。 「僕の顔に何かついてる?」 「いえ、ただちょっと……」 「怒らないから言ってごらん?」 完璧な笑顔を俺に向けた。 うちの姉ちゃんだったら気絶しそうだな。けど俺は…… 「ほんとに笑ったらいいのに」 「え?」 「いい子ちゃんなんてしなくていいんだよ。まだ子供なんだから。素直に笑えばいいし、作り笑いなんて似合わないよ」 「な……っ」 「俺はあなたに笑ってほしい」 背が高いそいつを見上げて伝えた。 しばらく驚いた顔で俺を見降ろしていたけど、顔をくしゃりと歪めて皮肉な笑みを浮かべた。 すっきり笑顔ってわけじゃないけど、さっきよりずっと人間らしい。 俺は嬉しくなって、ニカッと笑った。 「君は……変わった子だな」 それきり無言になってしまった。 俺、感じ悪かったかな。上下関係に厳しいみたいだしなぁ。 気を悪くしちゃったのかなぁ。 けど、先輩はコンビニの前までちゃんと送ってくれた。 先輩にお礼を言って、俺はコンビニで買い物をしてから寮に帰った。 冷蔵庫に野菜や肉を入れて、自室のベッドにごろりと寝転んだ。 さっきの金髪先輩の事を考えていた。 ─────俺には前世の記憶がある。 繰り返し夢でみる前世の俺は、大きなお屋敷で働いていた女中さんだった。 雰囲気からして、大正時代とかだと思う。 さっきの先輩は俺が前世で働いていたお屋敷の坊ちゃんみたいなんだ。 厳しく育てられて、素直に笑えなくなってしまった。 俺はこっそり坊ちゃんにおはぎをあげたり、バッタを捕まえて見せたりしてたんだ。 どんなにお金があっても、心が凍ってしまったらだめだ。 もし生まれ変わった清が笑えない人間になっていたらと思うと悲しい。 俺がこの学園に来たのは、前世で一番大切だった存在を見つける為だ。 「……清」 清も俺と同じように生まれ変わってる。 繰り返し見るあの夢は、清が俺に見つけて欲しいってメッセージなんだ。 もしかしたら、さっきの金髪が清だったりして。 前世で女だった俺は、今じゃ平凡な男子高生だ。 清がどんな姿に生まれ変わってるかなんて確かめる方法は分からない。 それでも俺は再び清と会うんだって心に決めていた。

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