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作り笑いの君[side加賀美]
[side加賀美]
道に迷ったという間抜けな一年生をコンビニまで送ってやることにした。
「君みたいな生徒は珍しいね。始めは慣れないだろうけど、大丈夫だ。この学園のルールは二年が教えてくれるよ」
そう、この学園にはルールがある。親衛隊持ちにとっては楽園に近いだろう。
僕は一年生を見下ろした。
身長は百七十もないな。顔は特徴のない平凡な感じだ。この子に親衛隊なんてつかないだろう。
一年生だから僕の事を知らない。当たり前だけど。この僕とこんな風に話すなんて、親衛隊長が知れば、この平凡な一年にきっちりとルールを教えてくれるだろう。
「制服だと学年ごとにネクタイの色が違うんだ。目上のものへの言葉使いには気を付けた方がいい。厳しいからね」
親切心で教えてあげた。親衛隊の制裁だとか、トラブルは御免だから。
何か言いたげに僕を見たので、僕は先輩らしく広い心で彼に話すよう促す。
一年の口から出たのは意外な言葉だった。
「ほんとに笑ったらいいのに」
「え?」
確かに僕はいつでも作り笑いだ。
でも気付く者なんていない。完璧な優等生を演じきれているはずが、こんな平凡な子に見破られた?
「いい子ちゃんなんてしなくていいんだよ。まだ子供なんだから。素直に笑えばいいし、作り笑いなんて似合わないよ」
「な……っ」
「俺はあなたに笑ってほしい」
……なんて目で僕を見るんだ。
こんな風に見つめられたことなんてない。
僕は憧れの対象として見られ続けてきた。
高嶺の花、手の届かない存在。
その期待に応えるようにと、完璧な人格、完璧な対応を心がけてきた。心の中では相手を蔑み、冷めきっていたけど。
この子はまるで……大切な相手を見守るように、優しい眼差しで僕を見つめている。
「君は……変わった子だね」
足元がぐらぐらする。築き上げてきた理想の自分が根底から崩されてしまうようだ。
僕はどうにかコンビニまで送り届けて、急いでその子から離れた。
「加賀美副会長様」
足早に寮に向かっていると、親衛隊長の子に呼び止められた。僕は完璧な微笑みを作って振り返る。
「お呼び止めしてすみません。どうされました? 」
生徒会副会長の僕の身辺警護も彼らの仕事だ。僕みたいなのが襲われることなんてまずないけど。
親衛隊長は心配そうに僕をみているので、安心させるように笑ってみせる。
「少し息抜きに散歩してたんだ。もう帰るよ」
「お送りします」
「必要ない」
少しきつく言ってしまった。隊長は恐縮した様子で僕から離れて立った。僕が見えなくなるまで見送るつもりだ。
イライラする。今日は早く一人になりたい。
この僕に真っ向から意見を言ったあの一年生。
「……名前、聞いておけばよかった」
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