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同室者とバケツプリン2

翌日、昼前に同室者くんは起きて部屋から出てきた。 入学式は来週だから、今週はダラダラしてて大丈夫なんだけどね。 「おはよう」 「………」 無視ですか。だが俺には秘策がある。 キッチンに立つ俺を押し退けて冷蔵庫を開けようとした同室者くんの手がピタリと止まる。 「!?」 調理台の上のあるものに釘付けだ。 「これ? バケツプリン」 「バケツプリンだと……?」 炊飯器で作った巨大プリンだ。 姉ちゃんとよく作ったんだよね。 同室者くんは自炊しない派のようで冷蔵庫に食材は無かった。 けど大量にプリンが買いだめしてあったのを見て、同室者くんはプリン好きだと思った。 試しに巨大プリンを作ってみたけど、すごい食いついてきた。 まるで番長にタイマンでも挑むみたいにプリンを見てる。 「ちょっと作りすぎたんだけど、食べる?」 「………………………食う」 「お昼ご飯にカレー作ったけど、こっちも食べる?」 「………………………食う」 美味しいご飯があれば争い無し。これは田村家の家訓だ。 夫婦喧嘩、姉弟喧嘩しても、美味しいご飯を一緒に食べれば仲直りできる。 俺は同室者くんにもカレーをよそってダイニングテーブルに皿を置く。 向かい合わせに座って「いただきます」と手を合わせた。 同室者くんは無言で食べはじめた。なんか警戒心の強い野良犬みたい。 「美味しい? 母さん直伝のチキンカレーなんだけど、骨付き肉を使うからコラーゲンたっぷりなんだ」 「うるせえ、黙って食え。お前、女子かよ」 おっと、ディスられた。 俺は黙って食べることにしたけど、同室者くんがニンジンを皿の隅っこにちょいちょいっと寄せているのに気付いた。 「ニンジン嫌いなの?」 「………」 「好き嫌いが多いと大人になって苦労するんだよ。ほら、社会人になったら付き合いで食事も行くでしょ? その時、ニンジン食べられません~なんて言ってたら恥かくよ」 同室者くんは俺をギロッと睨む。 う……でも駄目だ。言わずにはいられない。 「ご飯と一緒にカーッて食べちゃいなさい。今のうちに好き嫌いは克服しとく方がいいから」 「………お前、おかんみたいだな」 わ、笑った。怒るかと思ったら、同室者くんは笑った。 「同室者くんは」 「高城だ。高城篤」 こいつもアツシくんだったのか! 「俺は田村清道。でね、高城くん。騙されたと思ってニンジンも食べなよ。スパイス効いてるから、ニンジンの味は気にならないよ」 けど結局、高城くんはニンジンを食べなかった。 さすが不良。意思は曲げないかぁ。 俺はどうやって彼にニンジンを食べさせようか、頭の中で作戦を練りながらカレーを食べたのだった。

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