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同室者とバケツプリン[side 高城]
[side 高城]
俺と同室だという奴は地味なガキだ。
ニコニコと話しかけてきて、最初はうぜぇって思ったけど……どでかいプリンにまんまと釣られてしまった。
ニンジンを食べろだの、食器を洗えだのうるさい。女子力通り越して、マジでおかんみたいな奴だ。
……俺の本当の母親は、俺が九歳のときに死んだ。
ぶっちゃけ、うちは金持ちだ。
けど母親は何でも自分でやった。家族三人が住むのに十分な広さの家に住んで、お手伝いさんだの、ハウスクリーニングだの雇わず、料理も掃除も全部やってた。お菓子作りも得意で、特にプリンがめちゃくちゃ美味しかった。
母親が死んで親父が再婚して、金目当ての若い女が継母になった。
ちょっとぽっちゃりしてた母と比べて、継母はモデル系の美人だった。
広すぎる家に引っ越して、料理や掃除はメイドを雇い、継母は自分を綺麗に保つことに金を使った。
親父はあの女の言いなりだ。弟が生まれてからは俺の居場所は完全に無くなった。
家族から弾かれた俺は悪い仲間と夜遊びや喧嘩に明け暮れた。
敵対するチームとぶつかったときに相手に瀕死の重症を負わせて入院させちまって、焦った親に全寮制の学校に放り込まれたってわけだ。
ここは檻だ。
だが関係ない。気にいらないことがあれば暴れてやる。そう思ってたが……
「晩ご飯も食べる?」
田村と名乗った同室の平凡が声をかけてきた。
こいつ、俺にまったくビビらない。まぁ、こいつの飯はうまいから作らせてやる。
晩飯はハンバーグとスープとサラダだ。
どことなく懐かしい味だ。カボチャのスープもうまい。黙々と食ってると、田村がニヤニヤと俺を見ていた。
「あ?」
「なんでもない」
俺が飯を食うのを嬉しそうに見る田村に、なんだかくすぐったい気持ちになる。
仲間は俺の事を「強い奴だ」と畏怖の眼差しで見ていた。他の奴はビビって遠巻きにしていたし、親は俺の事を厄介者だと思ってる。
けど田村は俺の事を、なんつーか、生ぬるい目で見てくる。調子が狂うんだよ。なんなんだろうな? まるで、
───まるで母ちゃんみたいだ。
後日、あのカボチャのスープにはニンジンも入っているのだと教えられたが、怒る気にならなかった。
俺は田村に完全に餌付けされちまった。
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