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入学式2
清の生まれ変わりは苦労していないだろうか。心配だ。
ホームルームも終わり、さぁ帰ろうという時、数人の生徒に引き止められた。
「田村君、ちょっといい?」
「なに?」
俺は番犬よろしく唸るあっくんに先に帰ってもらった。あっくん以外の生徒とも話したいしね。
「あの、気をつけた方がいいよ。親衛隊に目をつけられちゃったかも」
「え?」
「僕達、中等部からだから分かってるけど、田村君は外部からでしょ」
「副会長様の親衛隊って過激なんだ。ほんとに制裁された生徒だっているんだから」
「それに、あの不良が何か問題起こしたら、田村君も連帯責任になっちゃうよ」
「教師は空気みたいなものだから。とにかく生徒会の皆様とその親衛隊には関わらないようにするんだよ」
皆心配して、いろいろ教えてくれた。
すごくおかしな話で、俺はいまいちピンとこない。でも優しい子たちだ。この子たちの中に清がいたりして。
「あ、ありがと。あっくんも俺も生徒会には関わらないようにするよ」
とりあえず礼を言って寮に戻ると、不機嫌マックスのあっくんが待っていた。
「で? なに因縁つけられてたんだ?」
「因縁じゃないよ。俺達のこと心配してアドバイスしてくれたんだよ。あっくん、生徒会や親衛隊の人に絡んじゃ駄目だからね」
「……チッ」
「こら! 舌打ちしない。いい? 問題起こして学校から追い出されちゃったら困るでしょ」
「困らねぇよ」
「俺は困る」
「え?」
もしかしたらあっくんは清の生まれ変わりかもしれないんだ。
今は確信が持てないけど……。
そもそも、どうやって確かめればいいのかも分からない。だから、つい俺はどんなやつでも清かもしれないと思って接してしまう。
「あっくんが退学にでもなったら、俺はすごく後悔する。あっくんをちゃんと卒業させたいし、学校生活を楽しんでほしい。せっかく一緒の部屋なんだ。もっと一緒に……最後まで一緒にいたいよ」
「………」
あっくんはちょっと赤くなっている。照れてるのかな。
熱血すぎたか。俺もちょっと照れちゃうじゃないか。話題を変えよう。
「あっくん。お昼ご飯は昨日のカレーを使ってドリアにするよ」
「……おう」
「あ、月末にレシート計算するから、食費は折半でちょうだいね」
「えっ」
えって、まさか払う気無かったのか?
いかん。金銭感覚はちゃんと持たなきゃ。あっくんが眉を顰めたので、俺はハッキリ言った。
「うち金持ちじゃないから、節約もかねて自炊するけど。これからもあっくんの分も作るなら食費は半分払ってね。もし学食の方がいいなら、もう作らないけど」
「違う!」
あっくんは苛立ったようにアッシュグレーの髪をガシガシと掻いた。
「お前の飯、うめぇし。食いたい」
「うん。でもね、やってもらって当たり前って事は世の中に存在しないんだよ。相手が無償でやってくれていても感謝の気持ちはわすれちゃ駄目だ。俺はあっくんにご飯作るの楽しいし好きだけど、お財布事情があるから食費は必要なんだ」
「食費は払う。言われるまで食費払ってなかったことに気付いてなかったってことが、なんか情けなかったんだよ。男として」
あっくん。硬派なんだな。
なんかしょげちゃってるし。落ち込んだ狼みたいで可愛いけど。
「ひとつ約束して。いただきますとごちそうさまはちゃんと言う事」
「わかった」
「俺、ほんとにあっくんの飼い主みたいだ……イタタタ!」
素直に返事をしたあっくんの頭をなでなでしたら、あっくんのでかい手で頭を鷲掴みにされた。
「調子にのんなよ」
「のってません!」
馬鹿力め。頭を解放された俺はちょっと涙目だ。
あっくんは拗ねたのか、自室に引っ込んでしまった。
けど、ご飯ができたら部屋から出てきて、「いただきます」と言ってから食べたのだった。
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