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制裁4[side千石]

[side千石] 新入生の平凡が生徒会の連中に溺愛されている。 それを面白く思わないやつが制裁を計画している。 そんな情報が風紀に入ってきた。 胸糞悪い。 ほっときゃいいだろうに、親衛隊ってやつは幼稚だ。 その親衛隊を放置している生徒会にも腹が立つ。 制裁が決行される直前、俺は倉庫の扉を蹴破って阻止した。 乱暴されかけた一年は幼い子供みたいな顔をしていた。ショックで茫然としてるんだろう。 くそ。もっと早く駆けつけていれば……。 保健室で少しからかうような事を言えば、一年生は元気を取り戻したように怒り出した。 怒りの方がいい。早く立ち直れるだろう。 改めて見ても本当に平凡な生徒だ。 なんでこいつを生徒会連中がちやほやするのか分からん。 とりあえず傷の手当てをして、破れたシャツの代わりを渡してやる。 「あの、委員長のも破れてますよ」 言われて気付いた。 あいつら、往生際悪く暴れやがって。 破れたシャツを脱いで新しいのを取ろうとしたら、 「!! それ、背中の……」 俺の背中を見て、一年が驚いたようだ。 背中の真ん中を斜めに横断するように、引き攣った火傷の痕のような痣が生まれつきある。 「これか? 別に火傷したわけじゃないんだ。生まれつきなんだよ。セクシーだって言われるんだぜ」 ふり返って笑ってみせたが、平凡は信じられないような顔で俺を見つめていた。 「ど、どうした?」 ふらつきながら立ち上がり、もう一度俺の背中を見た。 震える指先で背中の痣に触れた。 興味本位だとか、そんなんじゃない。 あまりにも優しく、愛おし気に触れられたので、俺はされるがままになってしまう。 俺の正面に立った平凡は小柄で、ひどく頼りない存在に見えた。 それなのに……その目だ。 「どうしてだ……?」 なぜそんな目で俺を見つめてるんだ。 こんな目で見つめられたのは初めてだ。 まるで自分の方が弱い存在になってしまったかのように錯覚しそうだ。 どこまでも優しくて悲しげで、底が知れない。 ────落ちてしまう。 その泣き濡れた小さな黒い瞳を言葉も無く見つめ返した。

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