34 / 56

平凡、補佐になる2

結局、俺はおやつ係、もとい生徒会補佐になることが決まった。 ほんとにおやつ作って生徒会室に持っていくだけなんだけどね。 これで生徒会の親衛隊は俺を守る立ち位置になった。 委員長もこの決定がベストだと納得したし、皆が安心するならって、俺も引き受けた。 それにおやつ作るのも、食べてもらうのも好きだしね。 大量にクッキーを作って親衛隊の子たちにも配ってたら、なんとなく仲良くなれた。 美味しいご飯があれば争い無し。 夫婦喧嘩、姉弟喧嘩しても、美味しいご飯を一緒に食べれば仲直りできる。 田村家の家訓がここでも効果てきめんだった。 「失礼しまーす。あれ、会長ひとり?」 放課後、生徒会室に入ると会長が一人で書類に目を通していた。 すでに仕事のできる社長の風格だ。素晴らしい。 俺は会長にミルクだけいれたコーヒーと今日のおやつを出した。 「これは?」 「マーラーカオ。炊飯器で作れるんだよ」 「……優しい味だな」 一口食べた会長の顔が緩んだ。 リラックスした顔を見るのは久しぶりかもしれない。 「あの、もう気にしないでほしいんだ」 俺を襲わせる計画を立てたのは会長の親衛隊隊長と八神先輩だった。 八神先輩はあっくんに一発殴られた上に懲罰部屋行きになった。 あっくんもついでに懲罰部屋に入ってた。殴っちゃだめだよね。 嫌われようが殴られようが、八神先輩はしぶとくあっくんのおっかけをしてる。 すごいタフだよ、あの人。逆に好感持ってしまう。 けど、隊長は逢望学園を自主退学した。 だから会長は責任を感じてる。 俺はそれが辛い。 「会長がこれ以上悩んでも、逆に俺は辛いよ。もう終わったことだよ」 「無理して許す必要はない」 「無理してない。学校を辞めちゃった隊長も前向きにがんばってくれたらいいなって思ってるよ。だから会長も自分を責めるのをやめてよね。俺も、誰も会長を責めてなんかいない」 「清道」 本音だ。会長の悲しい顔を見るのは嫌だ。 いつもの俺様に戻ってほしい。 お盆を持ったまま横に立っていた俺を会長は座ったまま抱き寄せる。 俺のお腹のあたりに頭をすり寄せて、大きく息を吐いた。 「……お前が無事でよかった」 「うん」 「特別なんだ。なぜかは分からないけど、お前に近くにいてほしい」 「会長」 「清って呼んでくれ」 「清……」 その名前の響きに胸が痛くなる。 俺にとっても特別だ。 今の会長は子供みたいに俺に甘えてる。 ああ、ぎゅっとしたい。 俺はお盆を机の上に置いて、会長を包み込むように抱きしめた。 会長が息を飲むのが分かる。 俺はあやすように優しく背中を叩いた。 「大丈夫。大丈夫だよ。清」 懐かしい。この感じ…… 昔、いたずらをした清を叱ったあと、こうやって抱きしめたっけ。 この学園に来てから、俺は前世の記憶を思い出すことが増えていた。 夢に見たり、日常でふいに思い出したり。 きっと清の生まれ変わりもここにいるからだ。 それなのにまだ、誰が清の生まれ変わりなのかは分からなかった。

ともだちにシェアしよう!