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今を生きる3[side千石]

[side千石] 清道の話を全部信じたわけじゃないが……こいつは本気で信じてる。 俺は胸がモヤモヤして、つい言いすぎてしまった。 「泣くな」 うるうると瞳を潤ませた清道を抱きしめた。 こうして腕の中にいるこいつは幼い子供みたいなのに……初めて会った日、深い自愛に満ちた優しい瞳で俺を見ていた。 あの目を知っているから、前世の話も嘘だとは言い切れない。 俺の苛立ちの原因はひとつだ。 「お前は過去に生きてる。ちゃんと今を生きろ」 生まれ変わりかもしれないとか、そんな理由で俺をあんな目で見るな。 「俺はお前の前世のことなんか知らない。知っているのは今のお前だ。前世のフィルターをかけずにちゃんと俺を見ろ」 俺は清道の頬を両手で包み、視線を合わせる。 さっきは高城や大徳寺が不憫だと言ったが、寂しく感じているのは俺自身だ。 「頼む、ちゃんと俺を見てくれ」 「……み、見てるよ」 「前世なんかにこだわるのはやめろ。今のお前の気持ちを一番にしろ。もし本当に俺がお前の息子の生まれ変わりだったとしても俺は……俺はお前を母親だとか、運命だとは思わない」 清道の瞳から新たな涙が零れた。 思わず頬を伝う水滴を唇で吸った。 そのまま唇にそっとキスをした。 清道は驚いてされるがままになっている。 「俺は今のお前が好きだ」 ああ……そうだ。 俺はこいつが好きだ。 「面倒見がよくて、優しくて、ちょっと天然で……平和主義で誰の事も憎めないお人好しなのも、今のお前だろ? 前世のお前じゃない。田村清道だからだ」 「い、委員ちょ……」 もう一度その唇に口付ける。 小さな唇は柔らかくて、少し震えていた。 「前世だとか男同士だとか、全部とっぱらって、ただの俺を見てくれ。俺が嫌いか?」 「嫌いじゃない」 俺はずるい人間だ。 嫌いかと聞かれれば清道は嫌いじゃないと答えるのが分かっている。 俺を好きかと聞くのが怖いんだ。 拒まれるのが怖い。 くそっ。俺もけっこう遊んできた部類だが、こんなのは初めてだ。 こいつが悲しそうに泣くのは見たくない。 「俺は田村清道が好きだ」 返事を聞くのが怖い臆病な俺は、ただ自分の想いだけを告げて、清道の唇をキスで塞いだ。

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