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夏休み4[side加賀美]
[side加賀美]
最悪だ。こんなやつとペアだなんて。
クジに細工でもすればよかった。でも卑怯な真似は好きじゃない。
「てめぇ、びびっても抱き付いてくるなよ」
「君こそ」
旧体育館の周辺は手入れされていない草木が茂っていて、外灯も少なく不気味な雰囲気だ。
この辺りで隠れてタバコを吸う生徒がいるので風紀が巡回しているが、この時間になると誰もいなかった。
「お前、キヨのこと好きなのかよ」
高城がぶっきらぼうに聞いてきた。
こいつが清道を好きなことは知っている。
あからさまに好意をぶつけているから、周知の事実だ。
「……」
好きか嫌いかで聞かれると、もちろん好きだ。
でも高城や大徳寺と同じようにかと問われれば……
「好きだ」
でも清道を抱きたいとか、キスしたい、セックスしたいとは思えない。正直なところ、恋だの愛だのといった感情はまだ分からない。
ただ側にいると安心するんだ。
ありのままの僕でいいと教えてくれる存在。生まれたときから側にいる兄弟のように。
いつか僕も恋心に目覚めるのかもしれない。けれど今は、穏やかな関係がずっと続けばいいと願っている。
「でも君とは違う。清道は友達というか、家族みたいな相手だ」
「……そっか」
旧体育館の前に着いた。
この学園ができた当初から使われていた体育館だ。校舎や寮はすべて新しく建て替えられている。古い遺産のような建物はこの体育館が最後だった。
だいぶ劣化している。人が使わなくなると一気に古くなってしまったようだ。
建物も人と同じだな。誰かとかかわらないと、心も劣化してしまう。
鍵を差し込んで回すがだいぶ固い。
錆びたような音を立てて扉が開いた。扉もひどく重かった。
僕達は旧体育館に入った。さすがに不気味だ。
「さっさと置いて帰ろうぜ」
高城に急かされて、僕は中央に花を置いた。
そして振り返って高城に告げる。
「君が清道を傷付けたら許さない」
「傷付けるわけねぇだろ。ほら、帰るぞ」
高城は拗ねたようにぷいとそっぽを向いた。
彼が清道を傷付けたりしないことは分かってる。
今では清道には味方がいっぱいいる。
僕の親衛隊からも信頼されている。
清道と出会ってから、僕から近寄りがたさが消えたって。それは僕にとっても皆にとって良いことらしい。
「早く清道のところに帰ろう」
旧体育館を出ようとしたとき、物音が聞こえて足を止めた。
「なにか聞こえたか?」
「なんも聞こえねぇよ。早く出るぞ」
「なんだ。君、怖いのか?」
「バッ……バカやろう! 怖いわけねぇだろ」
ほんとは怖いんだな。
僕は高城をからかいながら帰ることにした。
高城が騒ぐものだから、物陰に潜んでいた者に気付かなかった。
「おい。今の生徒会の……」
「なぁ、そろそろ帰ろうぜ。風紀まで来たらマジでやばい」
旧体育館の小窓の鍵は壊れていて、一部の生徒達は忍び込んで溜まり場にしていた。
体育館の裏は風紀の目が厳しい。けれど中まではチェックされていなかった。
補習授業を受ける為に寮に残った三年生たちだ。
真面目とは呼べない輩だった。彼らのような生徒を取り締まる為に風紀も合宿ついでに見回りをしていた。彼らが隠れていた用具室には放置されたマットやネット、それにタバコや酒の缶が散乱している。
三年にもなって補習なんかに出ているのだから、親の七光りで卒業するしかないような生徒だ。
教師などどうでもいいが、生徒会と風紀の千石は怖い。
吸いかけのタバコをぽんと投げて、彼らはこそこそと出て行った。
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