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二度と失わない2
「会長! 待って!」
「うわっ!!」
開け放った扉の向こうは火の海だった。
「なんだこれっ!?」
「会長、早く逃げよう!」
「燃えてんのはここだけだ。清道、先に行って加賀美に伝えろ」
「会長!?」
会長は暗幕を取りに走った。
少しでも火の勢いを抑えようと考えてるんだ。
「馬鹿なまねしないで、いいから逃げようよ!」
「拡がる前に消せるかもしれない」
「消せるわけないだろ!?」
会長はこれでも責任感が強いんだ。
でもこんなときは早く逃げてほしい。
「いいからお前は先に……うわっ」
暗幕に火が燃え移った。火の勢いは一気に加速した。
「くそっ。駄目だ。出よう」
「早く!!」
嘘みたいに火の勢いが増していく。
俺達は扉まで急いで走った。
「開かない!! なんで!?」
入口の扉は固く閉っていてビクともしない。
もともと重かったけど、古くて錆びついちゃってるんだ。
嘘……閉じこめられた!?
「清道、こっち来い!」
会長は扉から離れて、体育館の下の窓を蹴りつけた。
何度か蹴ってガラスを割った。そして格子を引っ張って捻じ曲げた。
どうにか俺が通れるくらいの隙間ができた。
「ガラスに気を付けろよ」
会長は俺にそこから出るように言うけど、
「この隙間じゃ会長は無理だよ」
「お前だけ先に逃げろ。すぐに加賀美に言え」
「な、なに言ってんの……?」
火の恐ろしさはよく知っている。
清を奪った炎は、お屋敷に出入りしていた酒屋が一服していたタバコのせいだった。
あれよあれよと大きくなり、あの大きなお屋敷を半分も燃やしてしまった。
住み込みで働いていた俺は、清に昼寝をさせて買い出しに出ていた。清を一人置き去りにして……あの子を死なせてしまった。
どんなにつらかったろう。
苦しかっただろう。
代われるなら、いつだって代わってやりたかった。
それが今なら、俺は会長の代わりに死んだってかまわない。
「だめだ!! 逃げるなら一緒だ!」
もう決して一人にはしない。絶対に離れない。
「清道」
俺は会長をきつく抱きしめた。
「大丈夫。俺が守るから。絶対に離さないから……ゲホッ」
煙を吸い込んでしまった俺の口に会長がハンカチを当てた。
そのハンカチを奪って、逆に会長の口を抑える。
俺はいいから、そう伝えたかったけど煙たくて、熱くて……うまく伝えられない。
でも大丈夫。絶対に離さないからと、俺は強く会長の手を握った。
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