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ハンバーグと恋1

 あの火事のあと、俺は退院してすぐに実家に戻った。結局、二学期まで実家にいることになった。  退院した日以来、皆には会っていない。  あの火事以来、なぜか前世の夢を見なくなった。  それに清を恋しいと思うことも減ってるんだ。少し寂しいよ。  しょんぼりしてる俺を元気づけようとしてか、姉ちゃんがランチに連れ出してくれた。ご夫婦でやってる洋食屋さんだ。 「ほら、あんたここのハンバーグ好きでしょ。今日は私の奢りよ」  奢りという言葉に会長のことを思い出した。  最後に会ったとき、会長はすごく落ち着いてた。  会長は時々、子供みたいだったのに。まるで急に大人になってしまったかのようだった。ちょっと寂しい。 「早く元気出しなさいよ」 「ありがと、姉ちゃん」  皆に会いたいって思うけど、本当はめちゃくちゃ会いたいと感じてるのは一人だけだ。 「姉ちゃん」 「ん?」 「男同士で好きとか付き合うってどう思う」 「ぶふぉッ!!」  姉ちゃんは水を噴出してむせた。ゲホゲホしたあと、きりっとした顔で俺を見た。 「姉ちゃんはな、愛に性別なんて関係ないと思ってる。あんたがゲイでも可愛い弟だよ」 「ゲイってわけじゃないんだ。ひとりだけ……」  会いたい。会って話がしたい。  確かめたい。 「俺の話をちゃんと聞いてくれて、ちゃんと叱ってくれて……守ってくれるひとなんだ。でも恋かどうかわからない」  今までの俺は「清を守りたい。自分はどうなってもいい」って気持ちが根っこの部分にあった。  今はそれがごっそり抜けちゃった感じだ。  そのかわり夢に見るのは、俺を抱きしめて守ってくれる大きな存在だ。 「まぁ、難しく考えないでいいんじゃない。その人と美味しいご飯たべてさ、ああ、好きだな~っ、これからもこの人と毎日一緒にご飯食べたいなぁって思うなら、もう恋でいいんじゃない」  田村家の家訓だ。というより姉ちゃんの教訓。  ずっとこの人と一緒にご飯食べたいって思う人が好きな人。 「はい、煮込みハンバーグ定食。熱いから気をつけてね」  奥さんが熱々のハンバーグを持ってきた。  美味しそう。あのひとにも食べさせたいなぁ。 「さ、食べよ食べよ」 「うん。ありがと、姉ちゃん」  寮に戻ったら、煮込みハンバーグを作って食べさせよう。飛び切り美味しいのを作ってやる。  そう心に決めて、俺はハンバーグを頬張った。

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