50 / 56
ハンバーグと恋1
あの火事のあと、俺は退院してすぐに実家に戻った。結局、二学期まで実家にいることになった。
退院した日以来、皆には会っていない。
あの火事以来、なぜか前世の夢を見なくなった。
それに清を恋しいと思うことも減ってるんだ。少し寂しいよ。
しょんぼりしてる俺を元気づけようとしてか、姉ちゃんがランチに連れ出してくれた。ご夫婦でやってる洋食屋さんだ。
「ほら、あんたここのハンバーグ好きでしょ。今日は私の奢りよ」
奢りという言葉に会長のことを思い出した。
最後に会ったとき、会長はすごく落ち着いてた。
会長は時々、子供みたいだったのに。まるで急に大人になってしまったかのようだった。ちょっと寂しい。
「早く元気出しなさいよ」
「ありがと、姉ちゃん」
皆に会いたいって思うけど、本当はめちゃくちゃ会いたいと感じてるのは一人だけだ。
「姉ちゃん」
「ん?」
「男同士で好きとか付き合うってどう思う」
「ぶふぉッ!!」
姉ちゃんは水を噴出してむせた。ゲホゲホしたあと、きりっとした顔で俺を見た。
「姉ちゃんはな、愛に性別なんて関係ないと思ってる。あんたがゲイでも可愛い弟だよ」
「ゲイってわけじゃないんだ。ひとりだけ……」
会いたい。会って話がしたい。
確かめたい。
「俺の話をちゃんと聞いてくれて、ちゃんと叱ってくれて……守ってくれるひとなんだ。でも恋かどうかわからない」
今までの俺は「清を守りたい。自分はどうなってもいい」って気持ちが根っこの部分にあった。
今はそれがごっそり抜けちゃった感じだ。
そのかわり夢に見るのは、俺を抱きしめて守ってくれる大きな存在だ。
「まぁ、難しく考えないでいいんじゃない。その人と美味しいご飯たべてさ、ああ、好きだな~っ、これからもこの人と毎日一緒にご飯食べたいなぁって思うなら、もう恋でいいんじゃない」
田村家の家訓だ。というより姉ちゃんの教訓。
ずっとこの人と一緒にご飯食べたいって思う人が好きな人。
「はい、煮込みハンバーグ定食。熱いから気をつけてね」
奥さんが熱々のハンバーグを持ってきた。
美味しそう。あのひとにも食べさせたいなぁ。
「さ、食べよ食べよ」
「うん。ありがと、姉ちゃん」
寮に戻ったら、煮込みハンバーグを作って食べさせよう。飛び切り美味しいのを作ってやる。
そう心に決めて、俺はハンバーグを頬張った。
ともだちにシェアしよう!