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ハンバーグと恋2
二学期が始まる三日前、俺は逢望学園に戻った。
旧体育館の解体工事はほとんど終わっていた。
実家にいたのは十日くらいなのに、随分長く離れていたような気がする。
寮の前であっくんが待っていた。
「……キヨ!」
「ただいま。あっくん」
「ごめん。キヨを助けられなくて……」
病院でもあっくんは俺に謝っていた。
「なんで謝るの?」
「……ごめん。俺がキヨを助けたかったんだ」
「俺も会長もケガしなかったし、大丈夫だって。あっくんも火事に巻き込まれなくてよかったよ」
俺はあっくんの背中をぽんぽんと叩いた。
やっぱりあっくんは素直で可愛い子だ。
「それ持つよ」
あっくんは俺のエコバッグを持ってくれた。先にコンビニで買い物をしてきたんだ。
部屋に入って、冷蔵庫に食材を入れるのも手伝ってくれた。
冷蔵庫の中にはすでに野菜が入ってた。前はプリンとジュースしか入ってなかったのに。
あっくん、夏休みの間、自炊してたんだな。
「今日はハンバーグだよ」
「久しぶりにキヨの飯食えるの、嬉しい」
あっくんは子供みたいに笑った。
「あっくん、今も俺のこと好きなの?」
「ああ、好きだよ」
俺は勇気を出して、あっくんの顔を真正面から見た。
その顔は今から俺が言おうとしてることに気付いてるみたいだ。
「待った」
あっくんは手をかざして俺の言葉を遮った。
「あの火事のとき……千石のやつが気絶したキヨを抱きかかえて助け出しただろ。千石はずっとお前の名前を叫んでた。……あの時のあいつ、すごかったんだ。俺も……誰も入り込めなかった。救急隊員が引き剥がすまで、ずっとお前を離さなかった」
あっくんは一学期よりも落ち着いた表情をしてる。夏休みの間に大人になっちゃったみたいに。
「キヨが好きだ。けど……あの時、あいつに比べたら、ままごとみたいな好きだったんだなって思い知らされた」
「あっくん……」
「キヨを好きな気持ちに嘘はねぇ。ほんとだ。でも、今の俺じゃだめなんだ。お前が優しいから、甘えて、好きだ好きだって駄々こねてるだけだったんだよ」
あっくんの言葉を聞いていると、寂しい気持ちと嬉しい気持ちがごっちゃになって泣きそうになる。
俺はごまかすように明るい声で言った。
「あっくん、大人になったねぇ。自炊もしてたみたいだし、俺は嬉しいよ」
「……お前、おかんかよ」
笑ったあっくんの顔は大人っぽいけど、すっきりしていた。
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