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春 3
心配していた花見は気に病んでいたのが不思議に思うほど楽しく、あっという間に解散の時間となった。
不安げな薫を立花がさりげなくサポートしてくれたのがありがたかった。
その立花と公園の桜を見ながら並んで歩き帰路に着く。
盛りを過ぎた桜は風に誘われ空に散っていく。
春めいた日差しとまだ少し冷たい風。
そのアンバランスな季節はこれからの芽吹きを予感させて気分を上向きにしてくれる。
ひらひらと散る花びらを眺めながら薫は思った。
今日のお礼を言わないと。
今まで口下手を理由にろくにコミュニケーションを取らずに来たけれど、これだけは伝えたい。
薫より頭半分ほど背の高い立花を見上げながら口を開いた。
「立花、今日はありがとう」
おかげで楽しかった。
続けるはずの言葉は声にならず消えていった。
見上げた先にはいつになく真剣な顔でこちらを見つめる立花がいて、何故だか不安になった。
不安……
いや違う、怖いんだ。
昨日までの距離を飛び越えて心に踏み込まれるような不安と、それを心地よいと感じる自分が。
もう誰にも許すことはないと決めた場所をこじ開けられそうな予感をその眼差しに感じ、心が揺れる。
「立花?どうしたの、怖い顔して」
不安が伝わらないように茶化すように問う。
「あ、ああ、なんでもないよ。ちょっと疲れただけ。女の子たち、よくあんなに喋るよな」
「久しぶりだったから確かに疲れるね」
薫たちの通う東陵学園は私立の男子校だ。
街の外れの小高い丘の上に建ち、特進科、普通科、スポーツ科がある。
丘の下には系列の女子高があり、今日はそこの生徒と遊んだのだった。
1年の男子校生活で忘れていたのは女子のおしゃべりと押しの強さ。
人見知りする薫の戸惑いなど吹き飛ばすように話し掛けられた。
たどたどしいながらも何とか会話になったのは横から助けてくれた立花のおかげだ。
「立花がいてくれてよかった。僕一人じゃどうしようもなかった」
「いいって。それなりに楽しかったしな。またみんなで遊びに行こう。今度は女の子抜きで」
それなら、と薫もうなずく。
この先2年を共に過ごす彼らともっと親しくなりたい。
いや、立花を知りたい。
そう思った。
「じゃここで。また新学期に」
「ああ、気をつけて帰れよ」
公園を出たところでコンビニに寄るという立花と別れしばらく桜をながめた。
昨日の憂鬱な気分とは違い少し前向きな気持ちになれたのは立花の影響か。
新学期に期待とわずかな不安を感じ薫は知らず微笑んだ。
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